日下部保雄の悠悠閑閑

2つの発表会、2つの試乗会

1つ目は「スープラ」の発表会

 試乗会や発表会が続いている。まんべんなく出席したいが、すべてに顔を出すのはなかなか難しい。その中でも発表会では「スープラ」と「MAZDA3」にうかがうことができた。

 お台場のメガウェブで行なわれたスープラ発表会はキックオフと言うべきもので、スープラファンも参加するフェスの雰囲気だ。技術的なプレゼンよりもスープラの歴史や、それに関わる者の想いなどを語ることに重きをおいたもので、トークショーなどもあって通常の発表会とは変わった形だった。

 スープラはすでに予約受注が始まっているのと、事前にプロトタイプ試乗会などもあり、情報はある程度出ているだけにファンも一緒に誕生を祝う形をとったようだ。

 知っての通り、スープラはオーストリアのマグナ・シュタイヤーのグラーツ工場でBMW「Z4」と並行して生産されている。スープラは発売直後に直6 3.0リッターの「RZ」に注文が集中して供給が追い付かなかったため、一旦受注を停止していたが、発表会では再開した旨がアナウンスされた。

 モータースポーツフィールドでは「86」に続くスープラのレース活動も期待したが、まず2019年のニュルブルクリンク24時間レースに出場して、そのフィードバックを今後のカスタマーカーに活かしていく方向のようだ。

 スポーツカーは自動車産業の華だが、ご承知のように開発費に見合うだけの収益を上げるのは難しい。BMWとの共同開発で高いハードルを乗り越えてデビューしたのは喜ばしく、メーカーの垣根を超えた協業は増えていくだろう。

 MAZDA3の発表会は天王洲アイルの寺田倉庫 B&C HALLで行なわれた。魂動デザインを標榜するマツダは空間の心地よさに注力しているだけに、会場全体のデザインにも気が配られていた。このモデルから「アクセラ」のネーミングは廃止され、グローバルでMAZDA3になる。マツダは今後数字によるネーミングに統一される可能性が高く、さらに進出が迫られる世界での認知度を高めようという姿勢だろう。

2つ目は「MAZDA3」の発表会

 MAZDA3はセダンとハッチバックの2つの異なるデザインがある。安定感があるのはセダンだが、ハッチバックはキャラクターラインを持たずにかなり冒険的だ。ヌメっとした造詣はこれまで見たことがなく、特に大きな面積を持つ特徴あるリアフェンダーはMAZDA3の存在感を高める。カラーもモノトーンの新しい色彩に挑戦している。

ハッチバックタイプのMAZDA3はうねうねとしたデザインのリアフェンダーが特徴的

 スカイアクティブ ビークル アーキテクチャーの思想の下にプラットフォームも一新され、注目の「SKYACTIV-X」エンジンも搭載モデルがある。エンジンの価格差は約40万円で強い興味を惹かれるが、その詳細について語られることがなかったのは残念だった。マツダはワークショップで詳細な技術を解説することが多いのでそちらに期待したいところだ。完成したスカイアクティブ ビークル アーキテクチャーに早く乗ってみたいものである。

発表会の会場にはMAZDA3と一緒に懐かしい赤い「ファミリア XG」も展示されていた

 2つの発表会はメーカー側の想いは伝わってきた。ただ、具体的な内容にあまり触れられなかったのは少し物足りなかった。

 試乗会ではメルセデス・ベンツ「A 200d」とボルボ「XC90 D5」に行ってきた。

 A 200dは2.0リッター新型のクリーンディーゼルターボエンジンで、「C 200」などに搭載されているエンジンの横置きレイアウト仕様。メルセデス・ベンツのコンパクトモデルとして日本初のディーゼルモデルでもある。そしてトランスミッションは8速DCTとの組み合わせで、ガソリンモデルのA 180の7速とは異なる。

メルセデス・ベンツ「A 200d」

 いつも思うのだが、Aクラスはフロアが高いのでシックリしたドラポジを取るのにちょっと調整が必要だ。裏を返せば小柄な女性の方がドラポジは取りやすいかもしれない。新しいディーゼルエンジンの静粛性は高く、室内では急加速時以外ではあまりディーゼルを意識することはない。加速時にバルクヘッドを通じて低音のノイズが入ってくるが、それほど気にならない。振動もよく抑えられているので、日常使いでディーゼルを意識することはあまりなさそうだ。ただ、発進などではもう少しルーズなアクセルレスポンスでもよいと感じた。

A 200dのペダル

 クルージングはディーゼルの得意科目で、高速道路での燃費は23km/Lぐらいだと言われ、かなりの航続距離が稼げそう。トルクも十分で追い越し加速も8速DCTとマッチングもよく、素早いアクションができる。高速道路では快適な乗り味に違いない。

 排出ガス浄化の念の入った補器類で、欧州の最新排出ガス基準「EURO6d」を完全にクリアしたクリーンディーゼル。ただ、エンジン重量が重く加減速でピッチングがあり、段差などのショックを吸収しきれないところもあって、軽快さではガソリンモデルのA 180の方が一枚上手だ。

 XC90はまさにボルボの旗艦だけあって、3列シートの堂々たるSUV。ボルボの快進撃はこの90シリーズから始まった。新世代のSPAプラットフォームはAピラーから前車軸までの距離を従来モデルりもかなり前に伸ばしてバランスのよいスタイルを実現している。トールハンマーの特徴あるヘッドライトを中心とした新しいデザインコンセプトもXC90からだった。

ボルボ「XC90 D5」

 ボルボはディーゼルエンジンの開発を中止すると発表しており、事実「V60」にはPHEVの「T6」と「T8」が導入されている。おそらくXC90 D5が新型車で購入できる最後のディーゼルとなるだろう。

 このクリーンディーゼルは2.0リッターターボで480Nmのトルクを発生し、ディーゼルエンジンにつきものの発進直後のモタツキを防ぐために「パワーパルス」と言われる短時間ターボを速く回すシステムが組み込まれている。ユニークなシステムで、発進直後のアクセルのツキがよくなっている。

 ただ、走行中に回転が落ちて再加速したい時など(変速スケジュールと兼ね合いもあって)、アクセルの反応が追い付かない時があるので、パワーパルスのようなシステムで応用できると面白いかもしれないとツラツラ思った。

 思い返すとデビュー時のXC90は乗り心地が硬かったが、今回試乗したXC90 D5はだいぶまろやかになり、路面からの突き上げも落ち着いてきた。段差乗り越しの際などはまだその面影は残っているが、大型SUVらしい味わいがある。大きいサイズも見切りのよさがそれを補っている。

 異常気象でたまに真夏のような日があります。ドアを開けた途端の熱気に悩まされる季節もすぐやってきますが、皆さんどうぞ気を付けて運転してください。安全な運転のためには、最初に窓を全開にして熱気を逃がすとだいぶ楽になります。言わずもがなでした。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。