日下部保雄の悠悠閑閑
一般道で「スープラ」に乗ってきた
2019年6月10日 00:00
トヨタ自動車「スープラ」に乗ってきた。注目のスポーツカーである。試乗コースは伊豆修善寺周辺の一般道。伊豆の道は狭く、ツイスティな道が多い。サーキットと違って日常でどれだけ楽しめるか興味津々。しかも天候にも恵まれて爽やかな青空が広がり、絶好のスポーツカー日和だった。
よく知られているように、スープラはBMWとの協業で生まれたスポーツカー。誕生までに7年の歳月が流れた。「86」のチーフエンジニアの多田さんが、海外メディアの試乗会場から姿を消し、突然ミュンヘンに飛んでBMWとミーティングをしてこいと言われたのが始まりだったそうだ。もちろん最初からスムーズに話が進むわけもなく、トヨタ側のアプローチに対して、BMW側からは商業的な理由で何年かよい反応が返ってこなかったという。
ところが先方の体制が変わり、一気に「Z4」とスープラの共同開発は進んだ。BMW側もシュリンクするZ4のマーケットに懐疑的だったが、スープラはクーペ、Z4はオープンと棲み分けることで、ポルシェの「ボクスター」と「ケイマン」のマーケットにFRスポーツカーで切り込むことができると結論したという。
話がまとまると展開は早く、最初のディメンションを決め、プラットフォームなどのキャリーオーバーはせずに、1から両車の開発をスタートさせることになった。そのディメンションとはワイドトレッド、ショートホイールベース。比率は1.55と、これまでのどのスポーツカーよりもトレッド比率が大きい。実際に、86よりも100mm短い2470mmというホイールベースを採用している。
生産は「5シリーズ」などを生産しているオーストリアのマグナ・シュタイヤーが行ない、購買もBMW側で行なうが、両車の基本のコンポーネントが決まってからは、別の道を歩むことになった。トヨタ側のマスタードライバーはベルギー人のダーネンス氏。彼からのフィードバックを基に、各種のセッティングが進められていく。そして完成したのが硬派のスポーツカー、スープラである。
86をスポーツカーのエントリーモデルと位置付けるならば、スープラはドライバーのスキルを要求するが、逆に言えばそれだけの体力を持ったクルマ作りを目指したということだと思う。
ステアリングを握ってみると、Z4とはまるで別物のスポーツカーに仕上がっているのが分かる。共通のコンポーネントとは思えないほど、そのドライブテイストは異なっている。Z4はオープン2シーターらしくおおらか。一方のスープラは多田CEの言うところの“ジェット戦闘機”のような研ぎ澄まされた感じだ。戦闘機なんて乗ったことないけど……。
ベースグレードの「SZ」は2.0リッターの4気筒ターボで、最大トルクは320Nm。フロント:225/50R17と、リア:255/45R17のコンチネンタルタイヤを履く。滑らかな乗り心地で、路面の凹凸は伝わってくるが、突き上げ感がドタバタしていないので快適だ。出力特性も低中速トルクがあり扱いやすい。
先代のA80型スープラもドライビングポジションが後方に位置していたので、お尻から伝わるリアの動きが分かりやすかった。A90型スープラも同様な感覚だが、カート的な動きからまろやかな動きだ。最高出力は197PS。重量は1410kgで馬力荷重は7.71kg/PSとなる。高回転域での伸びはあまりないが、スープラのベースグレードとして、スポーツカーの楽しみ方は存分に味わえる。また、タイヤ特性もあって、クルマ全体から伝わる味は優しい。
一方、「SZ-R」は同じエンジンだが258PS/400Nmまでチューニングされており、前後重量配分もSZと同じで50:50。重量は1450kgなので馬力荷重は5.62kg/PS台まで下がる。こちらはフロント:255/40ZR18、リア:275/40ZR18のミシュランを履き、かなりドライ寄りのセッティングになっている。
タイヤが太くてドライ志向のため、ハンドルセンターからの切り始めの滑らかさに段付き感がある。それにしてもパワーフィールはまったく異なる。ちなみに、スポーツモードにするとダンパーの伸び側が締めあげられ、ショートホイールベースのスープラではややピーキーな感触になる。とはいっても、後車軸の近くに座るのでコントロール性はわるくない。こちらはこもり音が大きく感じられた。
さて、真打の「RZ」は直列6気筒の340PS/500Nm。タイヤはフロント255/35ZR19、リア:275/35ZR19のミシュランを履く。重量は1520kgなので、馬力荷重は一気に4.47kg/PSになり、前後重量配分は空車で51:49になる。
乗り心地はタイヤサイズを考えると望外の乗り心地だ。しかも、ドライグリップは限りなくスポーツタイヤだ。ドライバーを中心としてグイグイと旋回していく感じはスープラの味でもある。ただ、限界点が高くてその見極めはちょっと慣れが必要そうだ。
スポーツモードではただでさえ小さいロールがグイと抑えられる。体感上、フロントのロールはリアよりもする感触で、フロントの接地感が高い。アクティブサスペンションのような感触もスープラの特徴だ。
そして、リアアクティブデフはデフの制御を減速、パーシャル、加速と滑らかに移行しているので、スープラの操安性に対する寄与は非常に大きいと感じた。
その昔、A80型スープラのLSDでハーフウェット路面の中、ハンドルと格闘したことを考えると大きな進化だ。
A90スープラはニュル24時間レースでレーシングカーとしての第一歩も刻む。持ち前の空力デバイスをフルに活用して進化していくことで鋭く存在感を強くしていくのだと思う。
スープラ雑感でした。