日下部保雄の悠悠閑閑

一般道で「スープラ」に乗ってきた

伊豆でスープラに乗ってきた。こちらは「SZーR」

 トヨタ自動車「スープラ」に乗ってきた。注目のスポーツカーである。試乗コースは伊豆修善寺周辺の一般道。伊豆の道は狭く、ツイスティな道が多い。サーキットと違って日常でどれだけ楽しめるか興味津々。しかも天候にも恵まれて爽やかな青空が広がり、絶好のスポーツカー日和だった。

 よく知られているように、スープラはBMWとの協業で生まれたスポーツカー。誕生までに7年の歳月が流れた。「86」のチーフエンジニアの多田さんが、海外メディアの試乗会場から姿を消し、突然ミュンヘンに飛んでBMWとミーティングをしてこいと言われたのが始まりだったそうだ。もちろん最初からスムーズに話が進むわけもなく、トヨタ側のアプローチに対して、BMW側からは商業的な理由で何年かよい反応が返ってこなかったという。

 ところが先方の体制が変わり、一気に「Z4」とスープラの共同開発は進んだ。BMW側もシュリンクするZ4のマーケットに懐疑的だったが、スープラはクーペ、Z4はオープンと棲み分けることで、ポルシェの「ボクスター」と「ケイマン」のマーケットにFRスポーツカーで切り込むことができると結論したという。

 話がまとまると展開は早く、最初のディメンションを決め、プラットフォームなどのキャリーオーバーはせずに、1から両車の開発をスタートさせることになった。そのディメンションとはワイドトレッド、ショートホイールベース。比率は1.55と、これまでのどのスポーツカーよりもトレッド比率が大きい。実際に、86よりも100mm短い2470mmというホイールベースを採用している。

スープラのシャシー。パワートレーンの大きさと、短いホイールベースが分かるだろうか

 生産は「5シリーズ」などを生産しているオーストリアのマグナ・シュタイヤーが行ない、購買もBMW側で行なうが、両車の基本のコンポーネントが決まってからは、別の道を歩むことになった。トヨタ側のマスタードライバーはベルギー人のダーネンス氏。彼からのフィードバックを基に、各種のセッティングが進められていく。そして完成したのが硬派のスポーツカー、スープラである。

 86をスポーツカーのエントリーモデルと位置付けるならば、スープラはドライバーのスキルを要求するが、逆に言えばそれだけの体力を持ったクルマ作りを目指したということだと思う。

 ステアリングを握ってみると、Z4とはまるで別物のスポーツカーに仕上がっているのが分かる。共通のコンポーネントとは思えないほど、そのドライブテイストは異なっている。Z4はオープン2シーターらしくおおらか。一方のスープラは多田CEの言うところの“ジェット戦闘機”のような研ぎ澄まされた感じだ。戦闘機なんて乗ったことないけど……。

 ベースグレードの「SZ」は2.0リッターの4気筒ターボで、最大トルクは320Nm。フロント:225/50R17と、リア:255/45R17のコンチネンタルタイヤを履く。滑らかな乗り心地で、路面の凹凸は伝わってくるが、突き上げ感がドタバタしていないので快適だ。出力特性も低中速トルクがあり扱いやすい。

 先代のA80型スープラもドライビングポジションが後方に位置していたので、お尻から伝わるリアの動きが分かりやすかった。A90型スープラも同様な感覚だが、カート的な動きからまろやかな動きだ。最高出力は197PS。重量は1410kgで馬力荷重は7.71kg/PSとなる。高回転域での伸びはあまりないが、スープラのベースグレードとして、スポーツカーの楽しみ方は存分に味わえる。また、タイヤ特性もあって、クルマ全体から伝わる味は優しい。

 一方、「SZ-R」は同じエンジンだが258PS/400Nmまでチューニングされており、前後重量配分もSZと同じで50:50。重量は1450kgなので馬力荷重は5.62kg/PS台まで下がる。こちらはフロント:255/40ZR18、リア:275/40ZR18のミシュランを履き、かなりドライ寄りのセッティングになっている。

スープラの4気筒エンジン。2.0リッターの直噴ターボで、出力はSZが197PS/320Nm、SZ-Rが258PS/400Nmと異なっている。前車軸に対してエンジンが後方に置かれ、前後重量配分は50:50だ

 タイヤが太くてドライ志向のため、ハンドルセンターからの切り始めの滑らかさに段付き感がある。それにしてもパワーフィールはまったく異なる。ちなみに、スポーツモードにするとダンパーの伸び側が締めあげられ、ショートホイールベースのスープラではややピーキーな感触になる。とはいっても、後車軸の近くに座るのでコントロール性はわるくない。こちらはこもり音が大きく感じられた。

 さて、真打の「RZ」は直列6気筒の340PS/500Nm。タイヤはフロント255/35ZR19、リア:275/35ZR19のミシュランを履く。重量は1520kgなので、馬力荷重は一気に4.47kg/PSになり、前後重量配分は空車で51:49になる。

真打ち「RZ」。唯一の6気筒エンジン搭載モデル

 乗り心地はタイヤサイズを考えると望外の乗り心地だ。しかも、ドライグリップは限りなくスポーツタイヤだ。ドライバーを中心としてグイグイと旋回していく感じはスープラの味でもある。ただ、限界点が高くてその見極めはちょっと慣れが必要そうだ。

 スポーツモードではただでさえ小さいロールがグイと抑えられる。体感上、フロントのロールはリアよりもする感触で、フロントの接地感が高い。アクティブサスペンションのような感触もスープラの特徴だ。

 そして、リアアクティブデフはデフの制御を減速、パーシャル、加速と滑らかに移行しているので、スープラの操安性に対する寄与は非常に大きいと感じた。

直列6気筒 3.0リッター直噴ターボエンジン。340PS/500Nmを発生する。こちらは空車の重量配分では少し前寄りになり51:49だ。4気筒との違いが分かるだろうか

 その昔、A80型スープラのLSDでハーフウェット路面の中、ハンドルと格闘したことを考えると大きな進化だ。

 A90スープラはニュル24時間レースでレーシングカーとしての第一歩も刻む。持ち前の空力デバイスをフルに活用して進化していくことで鋭く存在感を強くしていくのだと思う。

 スープラ雑感でした。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。