日下部保雄の悠悠閑閑

軽自動車と「N-WGN」

四角いがシンプルで好感が持てる新しい「N-WGN」

 自工会(日本自動車工業会)から出されている資料によれば、2019年度の販売台数見通しは登録車が335万1400台。これに対して軽自動車は187万2000台とされている。2018年は登録車が336万6600台、軽自動車は196万1000台の見込みだったので少し台数を減らしそうだとはいえ、大雑把に言って5台に2台は軽自動車なのは変わらない。まさに国民車として大きな存在感を示している。

 全長3400mm、全幅1480mm、全高2000mm、排気量660ccの枠にはめられることで、各社激しい競争を繰り広げているのはご存知のとおりで、36車種の軽自動車がOEMを含めて8社から販売される激戦区だ。その中でトップを快走するのがホンダのNシリーズ。中でも「N-BOX」の強さは他を一歩リードしている。

 ホンダはブランドイメージの高さもあり、一気にすべてを刷新するモデルチェンジも成功し、N-BOXのポジションは揺るぎのないものになった。

 軽自動車は車種も多いためクルマの形も複雑で、ダイハツ「タント」に端を発するトール系ハイトワゴンと、それよりも少し背が低いハイトワゴンに大きく分けられている。例えばタントやN-BOX、スズキ「スペーシア」、三菱自動車「eKスペース」もトール系カテゴリーで、全高は1775mm前後に入っている。一方、ハイトワゴンでは全高1660mmぐらいで、日産「デイズ」、ダイハツ「ムーヴ」、スズキ「ワゴンR」など幅広い範囲で、今回フルモデルチェンジしたN-WGNもこのカテゴリーとなる。

 実はN-WGNは好調なN-BOXに比べると1世代古くなっており、販売でも元気がなかった。そこで、2017年にフルモデルチェンジしたN-BOXをベースとしたN-WGNが起死回生を狙ってフルモデルチェンジ。すでに2か月以上前に発表されて概略は伝えられる意気込み。そしていよいよ試乗会である。

 デザインはシンプルな面構成でスッキリしている。ほぼ真四角なクルマなので、うまく面を使わないと愛想のないクルマになってしまうが、巧みにスッキリとした軽自動車らしさが表現されているように思う。

 乗降性はフロアが低く、そのフロアもマットを敷くとちょうどサイドメンバーとツライチになるので、足の入りがよい。シートのハイトコントロール量も増えているので、身長差の大きな場合でもカバーできる。そしてヘッドクリアランスも、これでもかというぐらいたっぷりとある。

 また、ステアリングも上下だけでなく前後にも動かせるので、体格への守備範囲が広い。小柄な女性から大柄な男性までOKだ。ちなみにホンダの軽初のテレスコである。

 ペダルは軽自動車らしく小さなもので個人的には物足りなく、もう少し大きい方が頼りになる。

リアシートの座面長は限られるが、足下は広い

 シートのフィット感は心地よいのだが、深く腰かけると膝裏への圧迫が強めになるのがちょっと気になるところ。リアシートも適度なシートストロークがあり、しかも足下は広々としているので、チャイルドシートに子供を乗せるのも便利そうだ。室内にも小物入れが適度に配置されているので、小物を置くのも困らない。トランクのレイアウトといい、限られた空間を巧みに使う軽自動車は凄いぞ。

ラゲッジは高さを2段階に分けられて便利

 自然吸気エンジンのN-WGNと、ターボのN-WGN カスタムに試乗した。エンジンはN-BOXから基本的な変更はない。まず自然吸気エンジンからスタートしたのだが、こんなに低中速トルクがあったっけ? というほど滑らかな加速をする。エンジンとCVTのお互いの相性は抜群だ。超ロングストロークのエンジンはCVTの特性に合わせて開発されたようなもの、と言われるだけあって、発進直後からそれほどエンジン回転数を上げなくても滑らかに加速してくれる。ひと昔前の軽自動車とは大きく違う。

 では、と首都高速道路に乗ってから追い越し加速を想定した加速をしてみたが、エンジン回転と加速の感覚が自然で好ましい。少なくとも1名乗車なら、よほどの急勾配でなければ加速にそれほどの痛痒は感じなくて済みそうだ。

 ちなみに、ブレーキを踏むとそれに合わせて緩やかにエンジンブレーキをかける制御が入る。これも3段階あって、状況に応じて加速同様の滑らかな減速ができ、ドライバーの感覚に合っている。

 ACCも全車速追従可能で停止まで機能する。ユルユルと動く渋滞のような場面では楽で、システム任せにしておいても周囲のクルマの加速に置いて行かれることはなかった。実用性は高く使い勝手がよい。ついでに言うと、ロードノイズの侵入もよく抑えられており、結構静かなキャビンなのだ。

 このように死角がないように思えるN-WGNだが、やはり全高の高さからくる高速道路の直進安定性は心もとない。860kgの重量に対して装着タイヤは155/65R14で決して小さくはないのだが、タイヤ剛性を上げるなどでもう少し改善してほしい。

 一方でカスタム L・ターボはタイヤサイズも165/55R15と大きくなり、リアにもスタビライザーが装着されている。この効果は大きく、まだ完全解消とは言えないが直進性も大きく改善されている。

 ちなみに、カスタム L・ターボは他グレードに対してスタビライザーだけでなく、スプリングやダンパーの減衰力も変更されている。例えばフロントスタビライザーはサイズアップされている半面、バネはソフトになり、ダンパーも低速域の減衰力が下げられている。リアも同様のチューニングを受けており、乗り心地とのバランスを取りながら、ハンドリングの向上が図られたチューニングだ。さらに電動パワーステアリングは、ハンドルセンターを強めにして操舵力も少し重くされている。ジワリとロールしていく感じは高速道路のランプウェイなどでも安定感が高い。

 乗り心地では路面突起からの突き上げは多少大きくなるが、メリットの方が大きく、普通のN-WGNにもこのスペックが欲しいと感じた。でも、商売的には受け入れられないだろうな。

 競争の激しい軽自動車の進化は凄い。バリエーションも選び放題だ。税金を含めて国民車としてそれだけ高い支持を受けている軽自動車がこんなに頑張っているのだから、小型車ももう少し何とかしないといけないんじゃなかろうか。

 そういえば乗りそびれていたダイハツ タントも早く試乗してみよっと。

ディスプレイは、角度がもう少し立っているとより見やすくなると思うのだが……

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。