日下部保雄の悠悠閑閑

試乗雑感

メルセデス・ベンツ初の量産BEV「EQC」

 今回は試乗会雑感。メルセデス・ベンツ初の量産BEV「EQC」、長い間乗れていなかった「MAZDA3」、日産自動車の「スカイライン 400R」。

 まずはメルセデス・ベンツのEQC。プラットフォームはメルセデス・ベンツのSUV「GLC」をベースとしてEQC用にアレンジした構成となっている。ホイ―ルベースはGLCと共通の2875mmだ。ボディサイズは4761mm×1884mm×1623mm(全長×全幅×全高。数値は欧州値)で思っていたより小さかった。もっと大きなBEVを想像していたが、そうでもなかったという感じだ。

 床下に置いたバッテリーは80kWhと大きな出力を持ち、前後輪にモーターを配置して4WDとしている。普段はFFで状況に応じてリアモーターも駆動するシステムだ。WLTCモードで400kmの航続距離となっている。

 デザインのインパクトはあまりなく、他のSUVと変わらない。メルセデス・ベンツはEQCにBEVのユニークさをアピールする意思はあまりないようだ。

広々としたラゲッジスペース。容量は約500Lを確保

 それは試乗をしてさらに実感した。2495kg(欧州参考値)という重量(そのうち652kgはバッテリー)は身のこなしに影響を与えており、自然な動きに任せて走るというよりも精緻な機械を制御しているという感じだ。

 街に乗り出してもコンベンショナルエンジンを搭載した他のメルセデス・ベンツ車と変わりはなく、アクセルペダルの反応も違和感はない。ブレーキもストローク感も持たされている。つまり他のメルセデスと変わらず、さらに静かなメルセデスだった。

 ただ、油断してアクセルを深く踏みこもうものなら、瞬時に大きな出力を持つリアモーターが全開になり、ちょっと慌てるほどの加速力を持つ。初期加速はガソリンのモンスターエンジンよりも鋭く、BEVならではの豪快さだ。

 回生ブレーキは普段はコースティングモードだが、Dパドルで「D--」にすると回生力が最も強くなり、減速力もそれなりに高くなるが停止するまでは行なっていない。ワンペダルドライブはあえて行なっておらず、最後はフットブレーキで止めようというのはガソリン車から乗り換えてもミスがないようにというメルセデスらしい哲学だ。

 静粛性はSクラス以上だろう。フロント235/50、リア255/45の20インチという大きなタイヤでもロードノイズはよく抑えられており、極めて静かだ。

 また、EQCは既存のメルセデスオーナーからの乗り換え、増車を想定してさまざまなプログラムを用意している。顧客を守る価値の高い残価設定リースを用意していることもその1つだ。

 デリバリーは2020年からになるが、これまでのメルセデスオーナーがEQCに乗っても違和感はないだろう。EQCはそんなメルセデスであった。

 一方、MAZDA3はディーゼルのファストバックを試乗してみた。すでに街を走っているので今更感もあるが、大変興味があったので嬉しい。

 デザインはマツダらしいもので、Cピラーのデザインがユニークだ。ドライバーからの斜め後方の視界は少し限られており、リアウィンドウも大きいとは言えないので後退するときはバックモニターにも頼ることになるが、通常ではそれほど不便を感じることはない。

MAZDA3のダッシュボード。インテリアはしっとりとした印象

 インテリアもモダンアートのような質感で、シンプルで好ましい。乗り心地はやや硬さを感じるが想定範囲。シャシーも前後方向の剛性が高く、路面のウネリに正直に反応する。高速になった時はスマートに抑えてくれるのだろうか?

 ディーゼルの振動もよく抑えられているが、やはりアイドリングだとブルブル感がある。そのSKYACTIV-Dはさすがにトルクもあって滑らかだ。追い越し加速も余裕である。発進の時はアクセルの開度とトルクの盛り上がりがマッチしない部分もあるが、力強い。

 気付いたところをチェックしてみたが、MAZDA3はグローバルCセグメントの中で十分に存在感を持ったモデルに仕上がっていると思う。さらにブラッシュアップしていってほしい。

 さて、スカイライン 400R。VR30DDTT型エンジンを過給圧制御で405PSまでアップさせ、電子制御ダンパー IDSとDASのコンビネーションをよりスポーツモデルらしく仕上げたモデルだ。最大トルクは475Nmという怪物級だ。

 第一印象は3.0リッターV6ツインターボの滑らかな回転フィールで、いいエンジンに巡り合った時の喜びがある。しかもスペックから連想されるようなじゃじゃ馬ではなく、ドライバーの意思に応じてレスポンスよく反応する。もちろん475Nmは伊達じゃない。

 初期のDASではちょっと違和感のあった操舵フィールは滑らかで、かつクイックになっている。この感覚はハイブリッドモデルとも違って好印象だ。

 ランフラットタイヤは路面の凹凸を伝えてくるものの、衝撃と言うほどではなく、乗り心地はいたって普通のセダンだ。ドライブモードを「スポーツ+」にするとロールが少なく硬くなるが、それでも不快な硬さでない。

 ちょっと気になるのはバネ上の動きが大きく、前後上下方向、特にロール方向でバネ上とバネ下の動きが合っておらず、このあたりがもう少し改善されれば一体感のあるスポーツモデルらしい動きになると思う。プラットフォームにはちょっと時間の経過を感じるが、そこまで言っては贅沢だろうか?

 400Rはダイナミックなエンジンを搭載したスポーツモデル。しかも日常のドライバビリティにもスポーツテイストを混ぜ込んでいる。スカイラインファンを裏切らないだろう。

400Rのバッヂと、スカイラインの象徴でもある丸いテールランプ。最初のGT-Rは横長ランプだったが、いつから丸くなったのだろうか?

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。