日下部保雄の悠悠閑閑
セントラルラリー
2019年11月18日 00:00
11月9日~10日に開催されたセントラルラリーに取材で行ってきた。このラリーは2020年開催予定のラリージャパンに向けてのテストイベントとして位置付けられ、主催者も来年に向けての検証をするというものだ。
WRCは通常3レグからなる3日間のイベントだが、テストイベントでは2レグの2日間で、レッキも含めると公式には3日間のイベントになる。
コースは愛知と岐阜の2県にまたがり、路面はオールターマック。しかも生活道路を使ったスペシャルステージもあって国内選手権とは様相が違う。
閑話休題。自分が国内ラリーを全開でやっていたころはナイトラリーが中心で、SSではなくチェックポイント区間がハイアベレージ区間となってSSの代わりをしていた。路面はすべてグラベル。チェックポイントからの指示速度にいかに正確に走らせるかも計算しながら走るので、現在のSSだけで構成されるラリーよりも複雑だった。今のペースノートを読み上げるコ・ドライバーの仕事とはだいぶ違う(当時はナビゲーターね)。
国際格式に参加するのは計8台。最大の話題はヤリスWRCでTOYOTA GAZOO Racingの育成ドライバーである勝田貴元選手が帰ってきたことだ。コ・ドライバーはベテランのダニエル・バリット選手。噂されていたヒュンダイWRCは参加しなかったので唯一のWRカーとなる。
才能豊かな新井大輝選手はイルカ・ミノア選手とシトロエン C3 R5で参戦する。マシンはヨーロッパラリー選手権にスポット参戦したもののようだ。WRカーとはパワーも違うが、自分にとって初めて見るR5車両は興味深い。国内戦で活躍する福永修/齊田美早子組のマシンはシュコダ ファビア R5で、ここまでが仮ナンバーでの出走となる。
ヘイキ・コバライネン/北川紗衣組のトヨタ 86はクラスも違うFR車だが、その走りを見られるのは嬉しい。この他ではスイフトとヴィッツ、インプレッサWRX STIとシトロエン DS3が安全燃料タンクなどを装備して国際格式に合わせて参加する。
この後ろには国内選手権などに参加している新井敏弘選手や勝田範彦選手、鎌田卓麻選手などJAF戦の常連が27台続く。残念ながら2019年のJAF選手権はすでに終了しおり、セントラルラリーはシリーズ戦に組み込まれていないので、奴田原文雄選手のランサーエボリューションXは参加していない。
さらにその後方にはクラシックラリー車が約20台続き、レグ1の午後とレグ2の午前を走る。ランチア ラリー 037なんていう、興奮するマシンも含まれる。なかなか凄い光景だ。
取材の関係でラリーに慣れているカメラマン用のタバードメディアではなく、クレデンシャルメディアを申請。そもそも取材経験はほとんどないに等しいので、みんなが見学できる近場の岡崎やモリコロパークのSSでウロチョロしていることにした。
レグ1でわれわれはまず岡崎の中央総合公園に直行。おかざきクルまつりを見て、SS3とSS4のショートステージを観戦する。
おかざきクルまつりには、レッドサラマンダーなどの消防車両や働くクルマ、災害救助活動で活躍した自衛隊、GAZOOのラリーシミュレーターゲームやこの日に発表されたダイハツの新型車 ロッキーなどを見たり体験できたりするものが多数あり、無料とは言え、ひっきりなしにやってくる来場者は4万人にも達したという。
SSはスタート直後に短いダートがあるものの、その他は駐車場の路面を走るターマック。ヤリスWRCの速さは圧倒的で、姿勢も作りやすそうだ。オフロードからターマックに入ったときの乱れも少なく、すぐに次のターンに向かっている。そしてタイトターンでも素早い姿勢変化で駆け抜けて行く。コーナリングスピードも圧倒的に速い。
新井大輝選手のシトロエン C3 R5も丁寧に走り抜けていく。WRカーとのトルクの差は歴然と現れるが、R5車両は言ってみればグループNぐらいの感じなのだろうか。短期間でクルマに合わせられる技量はさすがだ。
それにしても、多くの観客がピクニック気分でラリー車が走るのを見ている光景は、夜中、人気のない山でラリーをやっていた身としては感慨深い。
レグ2はHQに張り付き、モリコロパークのSSを見る。SS10とSS11は狭いサイクリングロードである。ターマックタイヤのグリップに任せて走っているように見えるが、後で写真を眺めると実際はわずかに横滑りをしながらコーナーを駆け抜けているのが分かる。ヤリスWRCの迫力はやはり別次元だ。
丁寧にコーナーをトレースするドライバーや鋭角的にブレーキを使ってコーナーを攻めるドライバーなど、さまざまで面白い。
日曜日ということもあって多くの家族連れがやってきて、この短い瞬間に歓声を上げていた。岡崎と違って、モリコロは純粋にSSを見るだけなのだが、それでも1万人の観客がいたというから素晴らしい。選手にしてもテンションが上がるだろう。
セントラルラリーの特色は、地域の人々が生活道路にしている道を閉鎖して行なわれた区間があったことで、それこそ民家の軒先をラリーカーが全開で駆け抜ける姿は、これまで日本のラリーでは想像もつかなかった。選手にとっても民家やそこから応援する人たちとの距離が近く、勝田選手によれば、雰囲気はイタリアのサンレモラリーのようだったという。
狭くてツイスティなコースは日本特有で、車両のセットアップもフロントがきちんとグリップする必要がありそうだが、どの選手もダイナミックなコース設置でWRCにふさわしいと口をそろえていたのが印象に残る。風景の素晴らしさがこれまでの山岳コースとは違う印象を与えたことも大きいそうだ。
セントラルラリーは、問題点を洗い出しながら来年につなげることは成功したようだ。まだまだ本番までにはやることが多いが、まず主催者の努力と地方自治体の協力に頭が下がる。お疲れさまでした。