日下部保雄の悠悠閑閑

発表会と試乗会の秋

ポルシェ「タイカン」。隣は向かって右がポルシェジャパン 社長のミヒャエル・キルシュさん。左はプロダクトマネージャーで日本語ペラペラのアレキサンダー・クワースさん

 試乗会行脚はまだまだ続くが、発表会もあった。ポルシェ「タイカン」である。タイカンはポルシェ初の量産BEVで、プラットフォームも含めてEV専用設計だ。プレゼン会場で真正面に座ってびっくりしたのは今さらながらのサイズ感だった。表参道のスタジオがそれほど広くなかったこともあり、前から2列目の席でタイカンを見ることになったが、隣に陣取ったCar Watchの小林編集長と「デカイですね」とうなずき合う。

 全高が低いのでなおさら幅広く見えるが、実際に全幅1966mmで全高は1378mm(ターボS)と低くて広い。ヘッドライトの中の4個のLEDがどこか爬虫類を思わせる。全体のフォルムは、パナメーラというよりもポルシェのアイコンでもある911系のデザインで、EVのコンポーネントならではの新しいパッケージングに挑戦している。横から見ると流れるようにリアエンドに収束するルーフラインは911との強い近似性を感じる。

 前後2つのモーターで460kW(オーバーブースト時は560kW)/1050Nm!!(ターボS)の出力で、0-100kmの加速はわずか2.8秒という途方もない能力を持っているという。想像もつかない速さだ。搭載バッテリーは93.4Wh(総合)で、リーフ e+の1.5倍のバッテリーを搭載する。重量は2tを軽く超える2295kg(ターボS)で、この巨体を止めるためにフロント10ピストン!! リアは4ピストンのブレーキキャリパーを20インチホイールの中に備える。

 航続距離はWLTPに準拠した測定で463km(タイカンS)となっているが、ポルシェはフォーミュラEでも大会後援企業になっているABBグループと協力して高速充電を可能にする150kWの急速充電器を開発し、ポルシェセンターや公共施設で次世代CHAdeMOに対応して供給するという。そのシステムだとタイカンSのバッテリーを80%まで充電するのに30分で済むと言われる。

 大容量バッテリーを搭載したBEVが同時に充電を開始すると停電を誘発しないか……なんていう杞憂は、見えないものにアレルギーを持つ世代の宿命だろうか?

 タイカンは2020年の東京オリンピック・パラリンピックが終わったあたりからデリバリーの準備が行なわれるようだ。

 プレゼンテーターは、今年ポルシェ・ジャパンの社長に就任したミヒャエル・キルシュさん。以前は中国、韓国の社長を歴任しており、日本での仕事に大きな希望を持って来日した。ポルシェ初のBEVのデビューと同時にメディアデビューも果たした。

 メルセデス・ベンツの年末試乗会も壮大だった。笛吹川フルーツ公園内にあるホテルを起点として、総計40台あまりのメルセデス車がそろっているのだ。日帰り温泉で有名な「ほったらかし温泉」へ行く途中のホテルが起点となる。

 今回は7年ぶりにフルモデルチェンジしたSUVのGLE試乗から始める。実は1日かけて午前中に2台、午後に2台の試乗が用意されているが、さらに時間と車両があれば他のメルセデス車にも乗れる。

 GLEはホイールベースが80mm伸びて2995mmとなり、3列シートが標準となった。全長は4940mm(GLE 450 4MATIC スポーツ)と105mm長くなり、全幅は12mm広い2020mmだ。全高は1780mmだから見た目からしてデカイ。大きなクルマには苦手意識があり、さらに2020mmのワイドぶりにビビっていたが、いざハンドルを握ってみると、ヒップポイントが高いせいもあって視界がよくて運転しやすい。

メルセデス・ベンツの「GLE」。全幅2mを超える堂々たるSUV

 ホイールベースも長い割には小まわりが意外と効くし、試乗会のコースでは予想以上に快適だった。もともとメルセデスは取りまわしがよく、ワインディングロードや郊外路でも約2.4tの車重が軽々と走る。直6の3.0リッターディーゼルターボは最大トルクが700Nmもあるので当然だが、それに見合うシャシーがあるからこそのメルセデスだ。東京の狭い道だときっと大きいんだろうナと思いつつ、ちょっと降りるのが惜しい。

GLEに比べると少し小さい「GLC」にも試乗した

 この試乗会では結局1日かけて7台に乗せてもらったが、一番感動したのはEクラス セダンの「E 350 de アバンギャルド スポーツ」だ。4気筒 2.0リッターターボディーゼルにプラグインハイブリッドを組み合わせたセダンで、ディーゼルの振動が出やすい発進時はモーターで走り、滑らかで静粛性に富んでいる。13.5kWhの容量を持つリチウムイオン電池を満充電しておけば、モーターでの走行距離は50kmと想定されているので、ちょっとそこまでなら電気だけで走れてしまう。モニターを見ていると、きめ細かく回生しているのが分かる。

 ワインディングロードではメルセデスらしいライントレース性と、操舵力のバランスのよさに改めてホッとする。セダンらしい味わいで疲れ知らずだ。

「E 350 de アバンギャルド スポーツ」は感激ものでした

 Eクラスの乗り心地や直進安定性、取りまわしなどは定評があり、乗るたびにホッとする安心感と新しい発見があるが、今回のPHEVはさらに静粛性と走り始めの滑らかさ、どっしりとした安定性を再確認した。本体価格875万円はEクラスのPHEVと考えるとお値打ちだろう。

 たくさん乗った試乗会でした。

イベント盛りだくさんの中、のんびり昼寝中のムクとサスケ。たまに遊んでもらってます

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。