日下部保雄の悠悠閑閑

冬タイヤの季節。運転のコツ

進化を続けるスタッドレスタイヤ

 毎年12月の声を聞くとスタッドレスタイヤに履き替えている。東京在住とはいえ、箱根などの山間地に行くことも多いので早めに交換している。スタッドレスタイヤのままで4月の初めまで夏タイヤはお休みだ。

 ずいぶん前の話だが、冬に入って間もなくのころ、ターンパイクを上っていた時に夏タイヤを履いて下ってきたクルマが突然の凍結路面に足を取られ、土手を派手によじ登るのを見てから、スタッドレスタイヤへの交換にはいっそう注意して心を引き締めた。

 さて、初期のスタッドレスタイヤはブロックを細分化し、そのエッジ効果で氷をグリップしようとしていたので、ドライの高速道路ではブロックがよれてしまい、その結果クルマはフラフラして運転には細心の注意が必要だった。というか、緊張して口もきけないほどだった。ホント。

 それから30年ほどの月日はスタッドレスタイヤを大きく進化させた。競争の激しい世界、しかも実用品だからなおさらだ。

 現在の大手メーカーのスタッドレスタイヤはブロックが3Dデザイン化され、ブロック同士がお互いに支え合う形状になっており、黎明期のようなブロックヨレによる恐い思いはしなくなった。また、コンパウンドも柔らかいだけでなく、氷が滑る原因である水膜を吸い上げる吸水性の高いゴムが開発され、それがトレッド面に使われているので氷上性能は抜群に上がっている。緊急用となる布製のタイヤカバータイプの滑り止めは、この吸水の原理に基づいている。

 スタッドレスタイヤの進化は止まらない。マイナーチェンジやモデルチェンジする度に氷上のグリップは向上しているし、最新のスタッドレスタイヤは苦手としているウェット路面でのグリップも改善している。さらに経年変化に対しても横浜ゴム製のスタッドレスタイヤの場合、適切な保管(カバーをかけて紫外線が直接当たらないような保管方法)をしていれば、4年経過しても劣化はほとんど起こらないとしている。

 この進化過程を見ると、スタッドレスタイヤはやがて氷上性能を維持しながら、オールシーズンタイヤの領域にも踏み込むのではないかと期待しているのだが。

 一方、最近登場したオールシーズンタイヤは欧州で発達してきたウィンタータイヤがベースだ。四季を通じて履けるタイヤで、圧雪路面などでは十分な性能を発揮する。以前、グッドイヤーの方向性パターンを持ったオールシーズンタイヤを雪上で乗ったが、想像以上のハンドリングに驚いた。この当時ではベストの性能を誇っていたと思う。

冬も走れるオールシーズンタイヤ(ただし、凍っているトコロは×)

 オールシーズンタイヤのパターンは方向性で扇型のモノが主流を占めているが、各社雪上性能はかなりのレベルに達している。ブラックアイスなどの氷上性能はスタッドレスタイヤにまだまだ及ばないが、黎明期のスタッドレスタイヤ以上の性能はありそうだ。

 しかし、日本は平地から急峻な山岳地帯に簡単に行けるので、平地は圧雪でも山道はアイスバーンになっていることがある。前述の崖をよじ登っていったクルマは、ドライ路面から日陰にできたアイスバーンに足を取られてしまったことからの事故だった。

 雪でも走れる最新のオールシーズンタイヤもアイスバーンは不適と言っているので、臆病者の私は当面スタッドレスタイヤを履くことになると思う。

 しかし、スキーや降雪地帯に行くことがあるユーザー以外、例えば都会に降る雪などはオールシーズンタイヤで大抵クリアできるのでニーズはあると思う。オールシーズンタイヤのドライでの静粛性や乗り心地、ハンドリングなどはぜひチェックしてみたいところだ。

この写真は整備された圧雪路だが、都会で雪の上だけ走るようであればオールシーズンタイヤでも大抵はクリアできるのではないだろうか

 さて、雪道をスタッドレスタイヤで走る時に注意していることは、アイスバーンと轍だ。アイスバーンは太陽の当たり方によって異なるが、日中は白く光っている場合がある。夜は黒く光ることがあるので、こんな路面が見えたらいっそう注意している。ブレーキのタイミングは余裕を持つようにしているし、その先にコーナーが見えたら手前での減速に神経を使う。また、1輪でもいいので可能な限り雪の上にタイヤが乗るようにしている。どんな雪でもアイスバーンとは雲泥の差でグリップが異なるので、雪はポイントだ。

アイスバーン。こちらは女神湖の氷上なので極端な例ではあるが、雪は重要なグリップポイントとなる

 もし雪道のコーナーで舵角が大きくなり、フロントタイヤがグリップ限界を超えて滑り出したら、切り増しをしても反応しなくなるので、ステアリングを戻してやるとグリップが少し戻る。これはドライバーに余裕がなければすぐには反応できないので、やはり余裕をもってドライビングすることが大切だと思う。

 圧雪はグリップがいいので気持ちよく走れるが、シャーベット状の路面が凍ったりすると、固い轍ができてしまいステアリングを取られる。凍った轍はタチがわるくなかなか抜け出せないが、こんな場合はある程度の舵角を与えて徐々に轍から抜け出すようにしている。ただ、轍から抜け出た時に舵角が大きいほどオツリがくるので、すぐにステアリングを戻せるように準備をしている。

圧雪路は気持ちよく走れるが、油断は禁物だ

 そういえば、横浜ゴムのスタッドレスタイヤの初期モデルで、ショルダーを夏タイヤのようにラウンドさせて、轍の影響を受けにくくしたコンセプトのタイヤがあった。確かに効果はあったが、一般的にはごつい印象だった冬タイヤらしくなかったので、当初は説明が難しかったようだ。懐かしい思い出だ。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。