日下部保雄の悠悠閑閑

チェーンの思い出

冬の道路は気持ちのよい圧雪路だけではない

 2018年の12月から新しいチェーン規制が始まったのはご存知だと思う。最近の突然の大雪でスタックする車両が通行止めを引き起こす事態が頻発したために新しい規制が始まった。チェーン規制は文字どおりチェーンを装着することが義務付けられているため、スタッドレスタイヤでもチェーンを装着しなければならない。

 以下、雪国の人には恥ずかしいのだが、自分の少ない経験から記載してみた。

 チェーンにもいろいろな種類があり、大きく分けて金属チェーンと非金属チェーン、それに布製チェーンに分けられる。

 金属チェーンはチェーンで雪や氷を引っ掻く。後述するがラリー中のトラウマがあるので個人的には苦手意識がある。そのかわり、雪では雪を叩きながら進むために効果は大きい。昨今のような突然の大雪で道を阻まれそうになった時は先に巻いておけば威力を発揮できそうだ。

 一般的な梯子型チェーンは形状から想像するとおり、横方向には弱いので峠のアイスバーンなどでは要注意。普通は駆動輪しか巻かないので、前後のグリップバランスが崩れるために速度には注意が必要となる。

 亀甲型は横方向にも強いが、小型車ではFFがほとんど。つまり前輪に巻くため前輪のグリップ力に比べて後輪が滑るのでアイスバーンではバランスが崩れることがある。

亀甲形金属チェーン

 非金属チェーンは重量も軽く、金属製よりは乗り心地もショックも小さい。また、スパイクを植えているタイプがほとんどでアイスバーンでのコントロール性もわるくない。装着もチェーンがからまないので、自分のような素人でも少し楽に行なえた記憶がある。

 ちなみに、スタッドレスタイヤはアイスバーンで効果を発揮するように接地面積を広く作ってあり、大きな溝面積はとれていないので、深雪で雪を掻き出すのはそれほど得意ではない。

 いずれにしても路面の情況や勾配、駆動方式やその時のクルマの姿勢によって変わるので、一長一短だと思う。何よりもクルマのフロアが重い雪に乗ってしまう状況ではどんなチェーンを装着していてもスタックする可能性が高い。

 最近注目されている布製チェーンは、チェーン規制でもチェーンとして認められているので今後増えていくと予想される。金属チェーンに比べてタイヤに袋を被せるように付けるので装着が容易だ。ノルウェー製のオートソックを雪道で試したことがあるが、ドライ路面でも静かで乗り心地がよく、圧雪路では予想以上のグリップがあった。布製チェーンは欧州でよく使われているようでメーカーもいくつかあり、スペイン製のISSE スノーソックスも今年から参入した。

 ただ、布製は乗り心地がよいので乾燥路面ではつい普段と同じようにアクセルを踏んでしまいがちだが、チェーンが壊れる原因になるので注意したほうがいい。これは金属チェーンでも同じなのだが、金属だと乾燥路面では音もショックもあるので速度を出すのが抑制されるが、やはり無理にアクセルを踏めば壊れてしまうのは金属でも同じだ。

 また、布製チェーンの深雪での効果を試してみたいが、臆病な私としてはできれば突然そんな場面には出会いたくないと思っている。

 チェーンでもっとも厄介なのは装着で、慣れていないと時間ばかりかかってなかなか装着できない。学生時代のスキー部の友人は手慣れたもので、梯子型チェーンを簡単に巻いていたが私にはとても無理だ。基本的には道路にチェーンを置いてクルマを転がしてタイヤを乗せて巻き付けるもので、慣れた人はすぐに巻くことができ、まるで魔法のように見えた。

チェーンを装着する際は、絡まりをきちんと整えてから地面に置くことが大切

 ラリーを全開でやっていた頃でもチェーンを巻いたことは数度だけだ。一番厄介だったのは舗装の目に雪が詰まって凍ってしまったタイトな登り勾配で、当時履いていたスパイクタイヤも歯が立たず、梯子型チェーンはチェーンの間隔が広すぎてグリップする前にスリップしてしまった。1台止まるとその後続車は万事休すである。つまりラリー車が数珠つなぎでスタックしてしまったのだ。

 その後どうなったかと言えば、ラリークルー同士でお互いのクルマを押し合って、やっと難所を乗り切った。しかし勾配が緩やかになってから乾燥路面で速度を上げたためにチェーンが切れてしまい、ボディを叩いて散々だった。これが自分の中でチェーンへの苦手意識として植え付けられている。

 また、普段使われないクローズドされた別荘地でのSSでは、深雪が予想されたのでチェーンをしっかり巻いたタイヤに空気をパンパンに入れて、チェーンのスパイク効果を狙って使ったこともあるが、無我夢中だったのでどれほど効果があったか分からない。ただアクセルを踏んでいただけである。現在のスノーラリーではチェーンに対しても違うアプローチがあるようだ。同じ時期にチームスバルでラリーをやって今も変わらぬ速さを誇る旧友の清水和夫君が昔と違うとこぼしていた。

試乗会などで走るクローズドコースはきちんと整備されている

 いずれにしても布製であれ金属性であれ、現場に行く前に装着の練習しておくのはマストだ。その場でなかなかできるものではないし、トランクに積んでおくだけではお守りにもならない。これは自分への自戒でもある。

 最近はチェーンの機能が向上して切れにくく、外れにくくなってはいるが、装着の仕方によっては外れやすくもなる。絶対ではないので過信しない方がいい。

 そうはいっても雪道は好きだ。今年は暖冬で雪が少ないのは残念だが、突然の雪にも慌てないように皆さんも安全なドライブを楽しんでください。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/16~17年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。