日下部保雄の悠悠閑閑

ドラポジの儀式

ボルボ「V60」のペダル類。欧州車は昔からオルガンタイプが多い

 ドライビングポジションは運転の基本となるので大切だ。私はといえば、走り出す前にドライビングポジションを合わせるのに少しだけ時間をかけている。同じクルマでも朝と夕方では少し身長が縮むためか、微妙にドラポジにも影響される。その度に微妙にシートをスライドさせたり、リクライニング機構をいじったりすることになる。

 自分で儀式と呼んでいるドラポジ合わせがある。アクセルペダルに足を乗せ、踏みかえてブレーキペダルをいっぱいに踏み込んでみる。数回強く踏んできちんと踏めるかを確認する。さらに、エンジンをかけてからブレーキを踏むとペダルが奥に入るので、この感触を確かめると同時に、再度ブレーキが踏みこめるかを確認する。

 MT車の場合はクラッチも踏むが、繰り返して行なうことはほとんどない。走らせないとミートポイントが分からないし、いつも乗っているクルマなら変わらないのと、ミートには幅があるのであまり気にしていない。

 朝一番の儀式が終わって万全と思いきや、それでも走り始めると違和感があったりして、次に停車したところでまた微調整なんてこともあるが、それでもせっせと毎日、儀式を続けている。

 夕方に同じクルマに乗ると大抵はペダルがわずかに遠く感じ、また調整を繰り返すことになるが儀式は日常行動の一環なので続ける。

 私、神経質そうに見えるかもしれないが、実はそうでもない。根がいい加減なのと、ラリーやレースでいったん走り出してしまえば、多少合わなくても何とかする癖がついているかもしれない。耐久レースでは2名以上ドライバーが乗るのでピッタリなんてことはなく、少なくともウチのチームの場合は全員が妥協していたと思う。

 結果的にペダルがしっかり踏めて、ステアリングがちゃんと回せればそれでよかった。フロントウィンドウもスタート前は一点の曇りもなく磨き上げられているが、耐久レースでは油がついたり、ラリーでは泥で汚れたりと、構っちゃいられないのである。

 余談だけど、ある時の耐久レースで予選では何ともなかったのに、決勝のスタートでやけに肩がスースーする。どうもサポートしないと思ったら、相方のドライバーがステアリングを回すと肩が当たるとかのリクエストで、レカロの肩サポートを切ってしまっていた。ホントの話である。

 でも普段の運転ではできるだけ快適にしていたいし、混合交通の中では多くの危険をはらんでいるので一連の儀式は続けている。ドライビングにはリズムが重要だが、合わせて安全には臆病なぐらいで丁度いい。

 ところで、最近のクルマのアクセルペダル、オルガン式が増えている。ドライバーの疲労軽減と脚の動きが自然になり、安全運転にも寄与できるとして採用が拡大している。

 以前はほとんどが吊り下げ式のペダルだったので、それに慣れて自分でポジションを工夫していた癖が残っていて、時々オルガン式を意識してしまうことがある。

ロードスターのオルガンアクセルペダル。NDロードスターはサイズとトランスミッションの位置関係からペダルが右にオフセットされているので、乗るときは最初にペダル関係を確認しておく

 理想は右足を伸ばしてアクセルペダルの付け根に踵がつき、そこを軸にして右足をひねってブレーキペダルを踏むことだと思う。しかしクルマによっては脚の伸び方が不自然になってしまい、ブレーキペダルに踏み替えるときに足首の回転がほんのちょっと遅れる。そこで気が付けば踵を少しだけブレーキペダル寄りに置くことが多い。

 オルガンペダルの利点は足の小さいドライバーでも踵をフロアに付けてアクセル操作でき、またアクセルの踏み込み量も慣れてしまえば操作しやすい。メリットは大きいことも承知の上なのだが、気が付けばいつも右足の踵はオルガンペダルの左端に置かれている。

 ペダルの位置や、ステアリング角度など、全てをパーソナライズできればいいのだが、量産車ではそうもいかない。

 とは言いつつ、オルガンペダルのND型ロードスターは最初の儀式で位置合わせができれば、毎日嬉々としてハンドルを握っている。コロナ禍の今だとちょっとオープンにするのが気になるが……。

威風堂々と闊歩しているつもりのライオン丸

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。