日下部保雄の悠悠閑閑
Honda e
2020年10月5日 00:00
話題のHonda eに乗ってきた。昨年のHONDA Meetingでプロトタイプの説明をしてくれたLPLの人見さんはその後、某浜松の会社に転職してしまったのでどうなるんだろうと思っていたが、シニアチーフエンジニアの一瀬さんと研究員の境さんから試乗後に詳しい説明を受けた。
ところで、最近の試乗会ではプレゼンはオンライン、試乗は3密を避けて分散させて行なわれるのが常態となっている。今回も同時間帯には3媒体が分散して集合するスタイルだ。
試乗会場となった美しい埠頭で約1年ぶりに見るHonda eはコンパクトで新しい。そして初代シビックを見るような懐かしさもある。Hondaは常に世の中にイノベーションを起こしていた企業だ。久しぶりにそんなHondaに会えた。
初代シビックやN360が登場した時も、CVCCが世界をアッと言わせた時も新鮮な驚きがあったし、初期のF1もその一環だったと思う。失敗も多かったし、無駄な投資も多かったと思うが、活気もあったのは事実だ。現在のHondaはグローバル企業に成長し、できることが限られちょっと窮屈な感があった。昔を知るHondaファンにはフラストレーションも溜まる。
Honda eは企業内にイノベーションを起こすきっかけになるのだろうか。あえて航続距離を追わず、シティユースを中心に置いたところから開発がスタートしている。クルマの使い方がこれまでと異なり、長距離はライドシェアを使い、普段はBEVを使うという考え方だ。自動車メーカーにとってはチャレンジングで、そこに自ら挑むことになる。
能書きはともかく、Honda eの試乗は持ち望んでいたイベントだ。まず、ホンダの担当者からスマートフォンによるドアのロック/アンロックなどの一連の流れや、ダッシュボード一面に広がったディスプレイの操作方法も教えてもらう。
Honda eの航続距離は2種類あって、上級のAdvanceは113kWモーターを積み、WLTCモード259km、通常モデルのモーターは100kWで283kmとなる。バッテリー容量は同じ35.5kWhなので、出力の違いはそのまま航続距離に直結する。もっとも使い方次第だが。
スタートボタンを押してもエンジン振動がないので走り出すまでの実感がない。ソワーとアクセルを踏みこむとスーと動き出す。振動/静粛性もBEVの魅力。粛々と横浜の街に乗り出す。加速した時に「あ、リアエンジン!?」と感じられるピッチングがあったが、基本的に姿勢はフラット。
そしてワイドディスプレイの両端に置かれたサイドカメラミラーシステムの見やすいこと! 解像度も高く、普通のミラーを見るのと同じくらい違和感がない。普段は視線の移動が大きかったことを思い知らされた。トンネルに入った時も明るくクッキリ見える。
ドアに付いたリアビューカメラも絶妙な位置にあり、視界に入らずに視野が広い。安全面でも素晴らしいレイアウトだ。
ホイールベースは2530mm。3895×1750×1510mmのボディの隅に4つのタイヤが置かれている。フロントタイヤの切れ角は極端に大きく、最小回転半径は4.3mと小さい。小まわりには命を懸ける勢いで、ドライブユニットをリアに押しやってまでサイドメンバーを狭くし、タイヤがよく切れるようにしただけのことはある。この威力は絶大で、Hondaが屋内に作った狭路もドンヅマルことなく難なくクリアできる。
タイヤはAdvanceにはミシュランのPILOT Sport4が奢られ(フロント:205/45ZR17、リア:225/45ZR17)、ビシッとしたグリップを示す。素のモデルには横浜ゴムのBluEarth(フロント:185/60R16、リア:205/55R16)を履き、こちらも剛性があってさりげなさが好ましい。
Honda eについては優秀なジャーナリストが寄稿しているので、つまみ食いして気楽にキーボードを叩いてみたが、なかなか気になる存在だ。クルマから降りる段になって、後席に忘れ物ないですか、と親切に教えてくれ、ますます好感度は高まった。
価格はベース車で451万円、Advanceで495万円。ベース車の補助金は国と東京都から合わせて約53万円ほどつくので(自治体によって補助金が異なります)、400万円を切るぐらいの価格帯になる。決して安くはないが、気になる存在だ。