日下部保雄の悠悠閑閑

ショーワのカーボンプロペラシャフト

軽々と持ち上げられるショーワのカーボンプロペラシャフト

 ショックアブソーバーで有名なショーワが技術プレゼンテーションを開催した。それぞれ興味深く、詳細は別項目で掲載するとして、ここではプロペラシャフトに面白いものがあったので紹介しようと思う。

 プロペラシャフトはフロントにあるエンジンから後輪に動力を伝えるものが普通だ。床下に長いスチール製パイプを通しているが、結構重い。しかも長くて重いものが回転しているので共振しやすく、2分割してセンターベアリングサポートをフロアに付けるという手間が必要だ。

上がCFRPの1ピース開発商品(正式名称は「1ピース型CFRPプロペラシャフト」というらしい)、下が量産の2ピースプロペラシャフトです

 そこで、ショーワではカーボンのワンピースプロペラシャフトを開発し、軽量かつコストも2ジョイントタイプと同等に抑えるという製品を発表した。

 これまでもカーボンプロペラシャフトは軽量/高剛性で、いくつかの車種に採用されているが、コストが高いためにプレミアムブランドに限られた。ショーワ製品は軽自動車のような量産車にも適応できる点で画期的だ。現在のターゲットは軽やコンパクトカーの4WDという比較的トルクの小さいクルマに向けてのものだが、将来はもっと大トルク車に対応することも考えられる。

ジョイント部

 軽量はカーボン素材である程度達成されており、もう1つの大きな課題であるコスト低減は2つの方法で行なわれる。

 1つはカーボンの高い剛性を利用して、スチール製では2分割の2ピースだったものを1ピースでまかなう。センターベアリングサポートが必要なくなり、この取り付け点で発生する振動もなくなる。センターベアリングサポートが省略できた分、コストと軽量化が進むが、従来のCFRP工法では製造に時間もかかり大量生産に向かない。つまりコストは大幅には下がらない。

 そこで2つ目のポイント。CFRPの工法を大幅に変えてコストダウンと量産性を上げることができた。通常、CFRPと聞いて連想するのはレーシングカーなどで見る繊維を編み込み、樹脂で固めた黒い面だ。量産を前提としないレーシングカーなどの大きな成形品には向いているが、量産品となると効率がわるい。また、プロペラシャフトの部品では繊維の編み込みの重なった部分で応力がかかり、CFRP本来の力を発揮できないという。

 ショーワで開発した工法は樹脂繊維を編み込まず3層に重ねあわせ、1枚ずつ角度を付けて配置する。ちょうどラジアルタイヤの構造のようで剛性が高い。

 これらの繊維は金型に入れて、即硬化剤樹脂を流し込んで、内側から別の金型で広げて成形される。この圧縮するとすぐに固まる即硬化剤を使う工法だとオーブンでじっくり焼く必要がないので、これまで数時間かかっていたものが数分でできるという。これでコストは一気に下がる。

近くで見ると編み込まれていないのが分かります

 重量はセンターベアリング付きの2ピースに比べると半分以下、8.5kgから一気に4kgまで軽量になっている。

 前後方向の衝突に対しても、プロペラシャフトの絞り込み部の肉厚をコントロールして屈折点を確保するなどしており、プロペラシャフトのみで完結する利便性も高い。

 まだスチール製に比べるとわずかに高いようだが、軽量化が達成でき、工作部分も少ないなどメリットも大きい。

このシャルマンは昔のプレイドライブの記事で、デビュー戦で優勝した時のモノです。こんな時代もあ~ったねと♪

 さて、プロペラシャフトで思い出すのは、その昔のDCC時代、FRのシャルマンのラリー車を作った時のことだった。シャルマンの排気量は1.4リッター。当時戦闘力のある排気量は1.6リッターだったので、レギュレーションに則って排気量アップした。当然マル改車検を取る必要があったが、プロペラシャフトは排気量に見合ったものを作らなければならず新作した。ところが期待の新作は振動が大きく、とても速度が出せない。高回転で回るプロペラシャフトは難しいものだと実感した。ヒヤヒヤしたがラリーまでには振動対策は終わって事なきを得た。もちろんスチール製のワンピースで、カーボンの素材自体、影も形もなかった頃のことだ。それが軽自動車の4WDに使われるなんて時の流れ、技術の進化を実感する。

これは関係ないけど、ホンダ研究所の新しい風洞です。荘厳ですね。計測部分に新機軸満載でした。いずれ紹介します

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。