日下部保雄の悠悠閑閑

ロールスロイス「ゴースト」

ロールスロイス「ゴースト」

 少し前の話、ご縁があってロールスロイス「ゴースト」の発表会に出席した。ロールスロイスのフラグシップは「ファントム」だが、ゴーストはもうワンサイズ小さいロールスをという要望に応じて企画された。と言ってもロールスロイスはロールスロイス。堂々たるリムジンであることに変わりはない。

 ゴーストの登場は2009年、リリースによるとロールスロイス116年の歴史の中で最も多くの販売台数を誇るモデルであるという。威儀を正したファントムより、もう少しカジュアル(?)なロールスも望まれていたことによる。ファントムのボディサイズは5770×2020×1645mm、重量2700kgと小山のように大きく、これぞロールス! 威風堂々たる正統派リムジンだが、一方ゴーストは5545×2000×1570mm、2540kgとひとまわり小さい(でも大きい)。マイナーチェンジではなく、最初から設計、開発したフルモデルチェンジである点も最近のロールスロイスの勢いを感じる。

フロントシートとインターフェース

 ロールスロイスも新型コロナウイルスの影響で生産を大幅に縮小していたが、ゴーストの生産開始に合わせてフル稼働になったと発表されている。英国グッドウッドの新しい生産現場では、ゴーストで活況を呈しているという。

 何せ量産といっても職人の手作りの部分が多く、それがロールスロイスたらしめているゆえんであるから、フル稼業は技術の伝承という点でも喜ばしい。

 フルモデルチェンジにふさわしく、先代ゴーストから受け継いだのは伝統のスピリット・オブ・エクスタシーと常設の傘だけとのことだ。

天井に浮かぶ星空。時に流れ星が見られるそうです

 その昔、ロールスロイスは自社製エンジンのスペックを公表していなかったが、最近は堂々と公開している。ファントムから継承されたV12ツインターボの排気量は6.75リッターというさすがのスペック。出力は571PS/850Nmと強力だ(ファントムは900Nm!)。BMW製のV12をそのまま持ってきたわけではなく、ほぼロールスロイスのオリジナルで、ボア×ストロークも異なる。車両重量2540kg(標準車)になるゴーストを250km/hまで引っ張るというからすさまじい。ちなみに0-100km/h加速は4.8秒。いざとなったら猛ダッシュでその場を離れることもできるわけだ。粛々と走るだけがロールスロイスではない。ちなみにファントムとは車両の性格が異なるため、エンジンの特性も違い、ファントムは低速トルクに重点を置いたエンジン仕様となっている。

 ファントムがFRなのに対し、ゴーストはオーナー自ら運転することも想定して、パワーに対応した安定性を得るため4WD+4WSを採用している。

V12 6.75リッター、571PS/850Nmのロールスロイス製エンジン。4WD+4WSで受け止める

 シャシーはファントムから始まったアルミのスペースフレームからの進化型で、2重構造のバルクヘッド+フロアとなっているが、剛性と共に静粛性が飛躍的に上がっているという。桁違いの静粛性が定評のロールスロイスにとって終わりなき追及は社訓のようなものだ。

 もう1つリリースに気になる点がある。それはロールスロイスの乗り心地を表現する「マジック・カーペット・ライド」で雲の絨毯のような乗り心地(乗ったことないけど)を深化させたとしていることだ。このコンセプトは前述の強固な車体構造からはじまり、ジオメトリーの徹底検証、フロントサスペンション・アッセンブリーの上にアッパーウィシュボーン・ダンパーを取り付け、微振動を打ち消すという初めての技術だ。究極のフラットライドを目指した制御はどのようなものなのだろう。

乗せてほしいリアシート。観音開きになっている
開いた後席の観音開きドアを閉めるためにCピラー付いたクローズドボタンを押します。しずしずと閉まります

 最高のモノを作りたいという意気込みに感銘を受ける。ちなみに前後重量配分は50:50になっており、親会社、BMWのポリシーに則っている。

 技術の粋を集めて究極を目指すクルマたちはスポーツカーであれ、リムジンであれ、そこにあるだけで存在感がある。そんなロールスロイスにぜひ乗ってみたいものだ。できれば後席で。

スプリット・オブ・エクスタシーが隠れています。恥ずかしいんでしょうか?

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。