日下部保雄の悠悠閑閑

コロナ禍でも明るい話題のモータースポーツ

2019年1月の女神湖。今年はこれ以上のコンディションだったと思う。残念!

 残念ながら今年の女神湖のドライビングパークは中止を決めた。氷の状態は非常によく、楽しみにして下さった参加者はもちろん、受け入れ側も2年ぶりの氷上に胸踊っていたのだが悔しい。緊急事態宣言を受けての決断だった。もとより人との接触は最小限にして開催する予定だったが、運営するスタッフも含めて完全にシャットダウンするのは難しい。

 女神湖の氷上といえば、過去にはメディア向けに実験的に最新スタッドレスタイヤと従来品の比較を行なったり、スタッドレスタイヤのゴムをグリーンタイヤに乗せて走らせたこともあった。

 スタッドレスタイヤのゴムの吸水性は驚異的で、パターンのないスリックタイヤでも氷の上はぎこちないながらも結構走れてしまう。精密なパターンと組み合わせればさらに扱いやすくグリップも上がるのはもちろんだが、氷とタイヤの間に生まれる水の膜を除去できるコンパウンドの能力を知ってもらった。

 ついでながら、ウィンタータイヤにはスタッドレスタイヤの吸水機能はほとんどないのが通例で、氷上では一級品のスタッドレスのようなグリップ力はない。この場合は氷温が上がって水膜ができるようになってくるとグリップが難しくなり、参加者は最新の注意を払って走っていた。微妙なアクセルコントロールやステアリング操作が難しい。

 氷上ドライビングレッスンはいろいろな想いがあって続けているが、オンロードではなかなかできないことが氷の上では容易に体験でき、日常の運転にも役立つことが多い。これからも氷上ドライビングにはこだわっていきたい。

 女神湖ができなかったのは本当に残念だが、その代わりに昨年も行なったオンロードのDriving ParKは暖かくなったら開催する予定。コロナ禍が少しでも収束してくれることを切に思う。オンロードと氷上、できることが違うのでメリハリを効かせてプランニングしていきたい。

 さて2021年は年明けから出鼻をくじかれたが、自動車業界も例年とは違った新年だった。日本自動車工業会はじめ業界4団体で行なわれる年明け早々の自工会の新春賀詞歓会は中止され、日本モータースポーツ記者会(JMS)のモータースポーツナイト(例年活躍した新人がクローズアップされる)も中止、さらに東京オートサロンも幕張会場が中止され、バーチャルになった。新春の挨拶に格好の場だったのだがそれもできない。なんとも寂しい状況になってしまった。

 オンラインで便利になったこともあるが、やはり人と人が会えるというのは素晴らしい。

オンラインプレゼンのひとコマ、アウディ ジャパンのフィリップ・ノアック社長の分かりやすいプレゼン

 モータースポーツも例外ではないが、明るい話題もある。2019年のラリー・ジャパンの前哨戦だったセントラル・ラリーで優勝した勝田貴元選手がWRC全戦、ヤリスWRCでエントリーすることが決まったことだ。マニュファクチャラーエントリーではないが、GRのワークス体制であることに変わりはない。F3で成果を上げた後ラリーに転向し、WRCに参戦するまでになったのは素晴らしい! 自由にチャレンジできるチャンスを活かしてほしい。

勝田貴元選手のヤリスWRC。これは2019年秋のセントラルラリーでのひとコマ。今年はWRCフル参戦となり活躍が期待される

 貴元選手はラリーガレージ「LUCK」創始者の勝田照夫さんのお孫さんで、勝田家と知るとグンと親近感が湧く。勝田照夫さんは先輩だが同時代のトップラリードライバー。LUCKはラリー車を作っていただけでなく、ラリーを通じたネットワークで人の輪も広げた。白いボディのサイドに濃紺の2本の太いストライプが入ったLUCKのラリー車は、TE27 トレノ/レビンから活躍が始まったように思う。小排気量ではKP61 スターレットで多くのラリードライバーが育っていた。廃車寸前のクルマを買ってきて安くラリー車が作れた時代である。リアスプリングはノーマルよりソフトというLUCKセッティングでトラクションを稼ぎ、全国にファンが多かった。

 今年GRヤリスで全日本に参戦する貴元選手のお父さん、範彦選手は全日本で何度もタイトルを獲得している。モータースポーツ一家なのだ。

 そしてもう1つのビッグニュースは、角田祐毅選手がアルファタウリから久しぶりの日本人レギュラードライバーとしてF1にフル参戦するというものだ。こちらも素晴らしい!

 昨年、全日本ラリーのタイトルを獲得した新井大輝選手も世界で活躍するチャンスを作ろうと活動しており、JUJU(野田樹潤)選手をはじめ女性ドライバーも世界に羽ばたいている。かつてないほどの日本人ドライバーが世界のモータースポーツで活躍しようとしている。

 本人の才能と努力はもちろんだが、周囲の人々の応援の結果でもあり、ぜひ皆さんチャンスを活かしてほしい。

2019年のセントラルラリーのWRC2で、シトロエン C3WRC2での優勝。右側が新井選手

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。