日下部保雄の悠悠閑閑

MAZDA3に乗った

MAZDA3。写真はセダン。スッキリしたドライブフィールが好感度大です

 久々に女神湖をエクリプス クロスPHEVで走って、そのAWD技術の進化に素直に感心し、同時に氷上ドライビングの奥深さを噛みしめることができた。こちらは別稿をご参照ください。

 女神湖ではいつも氷上のメンテナンスでお世話になっているコロシアム・イン・蓼科の安藤さんにお会いできたが、コロナ禍の影響もあってホテルは昨年で閉館してしまった。しかし今年の春から安藤さんが引き継いで再開すると聞きホッとした。女神湖周辺は春になると緑が美しく、夏は涼しく、そして秋は紅葉が素晴らしい。冬だけでなくそんな季節にも滞在できる贅沢が今の願望です。

女神湖。黒く見える路面は水が出ている箇所の場合が多い。数日前の雨で氷が緩んでしまったのです

 さて、MAZDA3のマイナーチェンジ車に乗ることができた。2019年の5月にアクセラの後継車としてデビューし、その後11月に夢の希薄燃焼エンジンとして世界から注目を集めた待望のSKYACTIV-Xが発表された。出力を落とすことなく高燃費と両立するエンジンはマツダならではの技術で、高圧縮が生み出す加速時のレーシングカーのような独特な音は、確かに内燃機の未来を予感させた。

 今回の改良は1年を経過した時点で行なわれたが、早くもSKYACTIV-Xにも及んだ。最高出力は180PSから190PSに、最大トルク224Nmから240Nmにアップされた。

エンジンルームはカバーで何も見えないけど、マツダの技術の意地が詰まってます

 都市部の試乗だったので加速する場面は首都高速道路の合流などに限られたが、走りの質感が向上していた。変更されたのは主としてエンジンの制御面だが、同時にハンドリングにもおよび、走りはカドが取れて滑らかになった印象だ。発進直後からトルクには余裕があったが、今までと違うのは少し回転が上がったところからのトルクにも肉付けされて、スイとクルマを引っ張ってくれることだ。試しに高速道路のランプロードで加速してみたところ、回転の伸びに途切れがなく滑らかに加速していく。生まれたばかりのエンジンが成長していくのをみた印象だ。

 乗り心地はピッチングが抑えられて、よりフラット感が向上した。MAZDA3では制御系だけではなく、ハード面でのサスペンションにも手が加えられ前後バネのバランスを是正している。フロントバネは少しだけ強くなったが、前後のショックアブソーバーでバランスをとり、上下の動きを抑えている。旧型と乗り比べるとバネ上の動きが減少している。

 路面からのあたりは少し強くなった感触だが、動きが抑制されスッキリしたものになった。

 これは後刻に乗ったディーゼルモデルで顕著で、荒れた路面でもリアの横揺れがよく吸収されていたことで分かる。このサスペンションのチューニングは全MAZDA3に共通のテーマで施されている。

試乗車はブリヂストンのタイヤを履いていた。接地感の高いタイヤでした

 さて、ハンドリングにこだわっているマツダだけにそのフィーリングは素晴らしい。ステアリングを切ってからのイメージ通りにターンインする感触、そして戻る力までもバランスよくチューニングされている。ESPも補舵力が素晴らしい。こちらもスッキリと気持ちのよいクルマである。

 マツダはターンインでの出力制御で旋回しやすくするGベクタリングコントロール(GVC)を取り入れているが、さらにブレーキ制御も入り、ドライバーの意思により忠実に反応するようにしつけられている。今回はフロントグリル内のエアシャッターの開閉にも注目し、空気の流れが変わることでフロントリフトが変化するのを最小限に抑えるため、GVCをコントロールしてハンドリングを適正にしている。

 効果のほどは混合交通の中ではなかなか分かりにくいが、それでも気が付くとハンドルを握る手に余分な力が加わらなくなったようだ。

 さらにスポーツモードを選択するとエンジンのレスポンスに合わせて反応してダイレクト感が高くなる。このモードでは確かにステアフィールが向上するので、エンジンとATのマッチングを変えるだけではないプラスαの価値を提供している。

マツダの操作系は視線をそらすことなくできるので安心感が高い

 マツダでは従来のMAZDA3においても近い将来アップデート・キットを用意すると発表した。価格や時期はまだはっきりとしていないが、サスペンションなどのハードの部分は除いて、MAZDA3のオーナーは制御面でこの恩恵に浴することができる。昨年12月に法律が変わり日本でも正式にアップデートが可能になったため対応できるようになった。

 ディーゼルモデルにも触れておくと、出力数字は変わらないがマップの変更で発進直後のタイムラグが小さくなり、従来のディーゼルエンジンで無意識ながらやっていたアクセルを一度踏みこんでから戻すような操作が必要なくなった。エンジン出力もザラツキが小さくなり、中間回転域のトルクが厚くなって明らかに滑らかで上質になった。

SKYACTIV-Dもエンジンの制御系が変わって発進が滑らかになった。よいマイナーチェンジです

 さて短期のマツダの構想ではいよいよ直列6気筒のSKYACTIV-Xを引っ提げてラージサイズFRモデルが登場する。SKYACTIV-Xの真価が問われることになる。また燃料の多様性があるロータリーも発電用エンジンとしてMX-30のレンジエクステンダーで復活することが公表されている。

 独自の技術と信念で突き進むマツダに目が離せない。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。