日下部保雄の悠悠閑閑
LRDC magazineを見て、高齢者の運転を考える
2021年2月15日 00:00
一冊の冊子が送られてきた。大先輩の大久保力さんから郵送されてきたLRDC magazineだ。LRDCはLegend Racing Drivers Clubの略で、力(リキ)さんはその会長を務められている。
表と裏表紙は前回紹介した船橋サーキットでの全日本CCCチャンピオンレース・ミーティングでの1スタートシーンで、表紙を合わせて28ページは味のあるレイアウトだ。タイトルは「レーサーだって歳をとる!」とある。確かに!
Legend Racing Driver達は日本でレースが開花した時に第一線で活躍された方ばかりで、70歳代後半から80歳代の方も少なくない。いわば高齢者ドライバーだ。しかし皆さん現役時代そのままに元気で、例えば第1回日本GPで優勝した86歳のTMSC多賀さんは数年前、クラウン・オリジンをベースにしたレーシングカーでもてぎのレースに出ていたし、74歳の長谷見さんは今も2輪のエンデューロを楽しんでいる。フィジカルトレーニングはテストと実戦がそれに代わっていたという年代は元気いっぱいである。
カミソリそのもののドライビングテクニックは今も変わらないが、さすがに現役時代と同じことができるわけではない。年齢を重ねて衰えたところを自分で判断して注意深くカバーしているところはLRDCのメンバーの共通の認識で、昔日の能力に奢るところは少しもない。
ぞっとするような高齢者のブレーキの踏み間違い事故が何件か続いて以来、免許返納キャンペーンが増えたと思う。クルマは自由をもたらしてくれると同時に人を傷つけるかもしれない道具である以上、何歳であろうとも安全運転に責任を持つのは当然だが、高齢者の事故ばかりが増えているように報道されているのも違和感があり、ちょっと調べてみた。
免許保有者10万人あたりの死亡事故件数はすぐに出てくるが、年齢別の統計データはなかなか行きつかない。やっと見つけたのが2019年の国土交通省のデータ。表を見てもらえば分かるが、年齢層では85歳以上(11.6件)と16~19歳(11.4件)が突出している。そして80~84歳(9.1件)、75~79歳(5件)、以下20~24歳(4.7件)、55~59歳(3.4件)と続く。これで見ると確かに高齢者の事故は多い。同時に24歳以下の死亡事故も少なくなく、こちらも事故を減らすシステムを作らなければならない。
一方、80歳以上のドライバーの事故は急速に上がっており、年齢に応じたきめ細かい対応が必要なのは確かだ。高齢者の実技をはじめとした講習もあるが、効果の高い講習になっているとよいのだが。
また、別の資料での事故の増減比は24歳以下と55~59歳は増しているのに対して、他の年齢層は減少しており、特に70~79歳の年齢層は二桁で大幅に減少している。心理的プレッシャーが働いて運転しなくなったのかもしれない。あるいは運転に慎重になったからの結果だとしたら、その経験をデータに残すことにより今後に活かせる。
運転に心配のなかった高齢者が周囲に言われて免許を返納して以来、鬱を発症したという話も聞く。移動の自由は年齢にかかわらず人にとって大切な権利だと思う。返納は強制的に行なわれるものであってほしくない。
人間、歳をとると視力も身体能力も判断力も衰えてくる。これらを自覚することはもちろんだ。免許を持った高齢者はどんどん増える時代に入る。あらゆる年齢層が見守っていける社会であったらいいと思う。