日下部保雄の悠悠閑閑
椅子の話
2021年2月22日 00:00
仕事柄いろんなシートに座る。もちろんクルマのシートのことだが、実は最近一番長く座っているのは我が家の椅子。椅子と言っても仕事用の椅子。COVID-19のために昨年来、在宅時間が長くなったのでお世話になっているものだ。元はと言えば子供の勉強机用の椅子なので小さくて固い。
そもそも高さを調整するリフターがダイヤル式のネジで止めるタイプで、錆びついていたのをCRCをぶっかけ、プラスチックハンマーで叩き、最後はプライヤーでやっと回して調整したという由緒正しい椅子である。スチールの汎用品なのでクッションなどあってないようなもの。体重のある大人(自分のこと)が長時間座っているとかなりきつい。短時間ならいいかと思っていたが、この椅子を使うことが多くなってからいつのまにか1年が経過してしまった。まだ忍耐の日を続きそうだ。我が家で活躍してくれたこの椅子もそろそろ交替の時期がきたようだ。
そんなタイミングで椅子についてボンヤリ考えた。
クルマ用の場合、シートはそのクルマとのファーストコンタクトとなる大切なパーツだ。ワーキングチェアと違ってクルマ用シートは多くの条件を満たさなければならず、その開発と製造もなかなか手ごわい。クルマのライフサイクルに見合う耐久性、何よりも安全性、そして快適性とホールド、もちろん生産車にとってコストも重要だ。何十年もかかって日本車のシートも一歩一歩前進を続けて今に至っている。
かつては日本車と欧州車のシートでは大きな差があり、日本車はクッションが単純でいわゆる“コシ”がないものが多かった。
しかし現在ではコンパクトカーでも欧州車と肩を並べる品質のものが少なくない。シートのクッション部材もウレタンやS字バネ、その組み合わせなどが工夫され、身体を支えている部分の面圧が適正になるように、またフレーム構造を変えて、クッションがシッカリ機能するように開発され、量産車シートの品質が大きく上がった。シートはメーカーによってアプローチが異なり、新型車発表に際して同時に解説されるプレゼンも興味深い。
高価格帯のクルマはシートにもコストがかけられアジャスト機能も多いが、可変機構を持たないシンプルなシートは素の技術の発揮しどころだ。
この仕事を始めた頃、衝撃を受けたのはフランス車のシートだった。国産車はぺなぺなのシートが当たり前の時代、例えばルノーのシートはクッションストロークがタップリしており、サイズも大きくソフトなサスペンションと組み合わされると素晴らしい乗り心地となり、シートの概念が変わった。今でもルノーに乗るとその頃を思い出す。一方でシトロエンのソフトでゆったりとしたシートにも驚いた。それ以来、フランス車のシートには一目置いている。
初代のFIAT PANDAもシートが自在に取り外せるハンモック式(ジウジアーロの発想は素晴らしかった)で、お世辞にも快適とは言い難かったが、楽しさはピカイチだった。さすがにハンモックシートは安全面からも快適性からもすぐに姿を消したが、自由な発想が活かされた時代だった。
グローバル化が進んで、シートも基本設計は共通化が図られることが多くなっているが、同じモデルでも生産国でシートの感触が異なり、意図しているかに関わらず+αの何かが異なっているように思う。
さてデスク用チェアについては、バケットシートでお世話になっていたBRIDEからも選択できることを最近、レーシングドライバーの片岡龍也選手のFacebookで知った。バケットシートの専門メーカーが作るシートをデスクワーク用チェアに転用した座り心地ってどんなものだろう。レーシングカーみたいに集中できて、あっという間に原稿が仕上がるなんてことは……ないか……。
と考えつつ、きっと事務用の椅子に座ってるんだろうな~……。