日下部保雄の悠悠閑閑
EVについて
2021年3月1日 00:00
試乗会開催がやりにくい中、マツダは横浜のR&D施設を拠点に中身の濃い試乗会を行なっている。試乗会後にオンラインでの意見交換会などキメ細かい。
MAZDA3のビッグマイナーチェンジもここを起点に行なわれた。やはり実車に乗れるのは嬉しい。
そしてマツダ初のBEVモデル、MX-30 EVモデルも横浜を起点に試乗会が行なわれた。昨年登場した24VマイルドハイブリットのMX-30もマツダらしい技術を駆使したSUVで、ハンドリング、乗り心地もスマートなものだった。しかし今回のEV版MX-30は、実はこのクルマはEVのために作られたんじゃないかと思われるほどマッチングはよかった。
エンジンと決別したEVの振動や音が全くない粛々とした走り出しはいつも感動ものだ。アクセルコントロールも自然で乗り慣れたガソリン車に近いが、さらに最初のひと踏みのストローク量も少なくスーと動きだす。また、走行中の音はロードノイズが主たるもので風切り音もよくカットされている。
さらにe-GVC Plusの制御はEVではガソリン車よりも積極的に効果を出せ、アクセルのON/OFFで起こる前後Gを積極的に利用することで自然な旋回姿勢を作れる。ガソリン車よりも約200kg重いEVだが、頑丈なフレーム(フロア剛性が30%上がっている)でサポートされたバッテリーを床下に置くことで低重心、高剛性で乗り心地も爽快なもの。ドライバーにもパッセンジャーにも快適なクルマだった。
中間加速もハイパワーバッテリーを搭載したEVのような爆発的なところないが、余力のある加速で必要にして十分だ。
価格は451万円からだが(助成金があるので実際にはもっと安くなる)、MX-30 EVモデル用の残価設定ローンでは3年プランで残価率55%と言うのはEVへのハードルを下げる大きな材料となる。
MX-30 EVモデルは心落ちつくクルマでホッとさせてくれた。
ところでMX-30 EVモデルは水冷式35.5kWhのバッテリーを搭載して、WLTCモードで航続距離256km。日本のEVの先駆者、日産 リーフ+では65kWhを搭載しているが、最近風の便りに聞く新登場EVはこのあたりに収束する気配だ。
その理由は発電に関して化石燃料比率の高い日本では製造時のCO2排出量が大きく、容量の大きなバッテリーだとバッテリー交換までにディーゼル車の排出CO2を逆転できなくなるとの試算もある。クリーンなはずのEVが製造や電力の製造工程でのCO2を挽回できないことになるのだ。
排出CO2量でMX-30 EVモデルとディーゼルのMAZDA3を比較すると、当初大きかったMX-30のCO2量(製造時の排出が大きい)は4万kmぐらいでディーゼルのMAZDA3を逆転して有利になり、8万kmでバッテリー交換するとイーブンになる想定だという。日本の場合、95kWhのEVではCO2削減に関してはそれほど簡単ではない。
欧州、特にフランスでは58基の原発があり電力は豊富。また氷河によるクリーンで大きな水力発電が可能なノルウェイも同様だ。補助金政策もあり、この2国ではスモールモビリティも含めてEVやPHEVが多く使われている。
EVにすればCO2問題は解決するというのは幻想だが、再エネで得られる発電のエネルギーバランスを考えるにはよい機会だと思う。CO2削減にフォーカスすれば原発の有無も真剣に議論しなければならない。
もし日本を走っている6000万台と言われているクルマがすべてEVになると仮定すると、CO2を出さない120万kW級の原発11基分の電力が不足するという。
発電インフラだけでなく、搭載バッテリーによっては2tを軽く超えるEVが傷めるアスファルト舗装(日本の場合、ほとんどが柔らかいアスファルトだ)の補修、トンネルの安全設備など、すべてのインフラが変わってくる可能性が高い。ガソリンや軽油から徴収していた揮発油税の減少で税制も変わるだろう。
自動車産業もエンジン、トランスミッションなどが必要なくなるEVだと産業構造も変わってくる。あらゆる面で社会は大改造を必要とされる。
一気にすべてがEVになるわけではないので、これらの問題の解決にはまだ時間はある。
EVは素晴らしい経験をさせてくれる。EVを迎え入れる入口にある現在、クルマだけでなく社会全体で受け入れ準備をしていかなければならない時だと感じた。