日下部保雄の悠悠閑閑
下肢障がい者用MX-30 EVモデル
2021年3月8日 00:00
マツダ初のフルEVモデルとして話題のMX-30だが、もう1つのニュースは自操車と呼ばれる下肢障がい者も乗れるEVでもあることだ。マツダでは「Self-empowerment Driving Vehicle」と呼んでいる。上肢だけでドライブできるクルマだが、EVとの相性は優れており、慣れれば動きは滑らかだ。
従来の下肢障がい者用の福祉車両との違いはアクセルの操作方法だ。日本で主流なのは、ブレーキとアクセル操作が一体型となったシフトレバーのように出ているスティックを左手で前後に操作し、右手でハンドル操作をするタイプだ。今回のMX-30 EVモデルでは左手はブレーキレバーに専念し、右手でハンドル内のリングを押すことでアクセル操作することができるタイプで、欧州で広く使われている。
ハンドルは送りハンドルのように操作するのがポイントだ。常に両手が塞がる緊張感からは解放されるのも安心感がある。マツダは運転する楽しみを標榜しており、そのタグラインに則って下肢障がい者用車両にも積極的に訴求する。
実際に横浜R&Dの構内でそのプロトタイプに乗せてもらった。最高速は30km/hだが乗せてもらえることが嬉しい。
いきなり走り出せるわけではなく、最初に簡単なレクチャーを受けないと「???」マークがつくばかりだ。しかし広報の町田さんの説明でなんとなく要領が分かった。
慣れた右足をフロアに固定封印して、パーキングブレーキを解除して、恐る恐るリングのアクセルを押してみる。オー! ウゴイタ! これだけでも感激だ。最初のUターンやタイトターンでドタバタとハンドルを送るように緊張の頂点で操作する。気が付けば操舵力も軽い。
やっと直進路に来てグイグイとアクセルリングを押す。スーと加速が伸びる。EVならではの滑らかさだ。レスポンスとその後のスムーズな加速性能はなじみやすく、速度コントロールもしやすい。アクセルリングはストロークもあって親指で押し込む感じだ。ハンドルは手のひらで送るように回す。ハンドルとアクセルリングの位置関係はさらに検証していくようだ。
下肢障がい者がモータースポーツに挑戦しているケースも少なくない。使いやすい位置などヒアリングしながら開発されていると思われるが、発売までにはさらにチューニングされるだろう。
ただ現状でも慣れると予想以上に緊張感が和らぐ。
さらにブレーキレバーは左肘を乗せるアームレストがあり、ここを支点にすることで一定のリズムでブレーキ操作ができる。
ブレーキに関しては右足でブレーキペダルを踏むのを一生懸命抑えてのことで、気が付くとブレーキペダルを踏みそうになっている自分がいた。あたふたしながら、ブレーキレバーだけで減速する。こちらも慣れてくると運転を楽しめる。
ブレーキレバーの最初のストロークは減速Gはもう少し鈍くして、車庫入れなどでジワリとした動きができるといいと感じたが、こちらは完全なド素人、慣れてしまうと自在に操作できるのかもしれない。
2つの操作がリンクして反射的に動かせるようになるのはもう少し時間が必要だがなかなか得難い経験だ。
このクルマは健常者も普通に運転できるようになっているので、フットブレーキを踏んでイグニッションをONにするとアクセルペダルの操作ができ、普通のクルマになる。もともと下肢障がい者用でもブレーキペダルは操作可能なので、交替はいつでもできるのだ。
1つ感じたのは自動駐車が欲しいと思ったことだったが、すでに実験的に装備されていた。
MX-30は観音開きのドアで、このメリットを活かしてリアドアは運転席にある自動ドアスイッチで開閉できるため、乗車の際は車いすからシート横に出せる補助シートに移動して、車いすを自分で畳んで後席に収納することができる。従来はウィンチを使ってルーフに上げるなど大掛かりだったのが、シンプルなメカニズムで済んでいる。
車いすは折り畳みができれば汎用品でも収納できるが、マツダでは6kgしかないカーボン、アルミを多用した軽量車いすも開発している。重量のあるものを上体だけで収納するのはそれなりに力が必要で大変だが、車いすの軽量化はさらに行動的になれるに違いない。
またEVのメリットで自宅で給電できるので、障がい者がガソリンスタンドで給油する苦労からも解放される。