日下部保雄の悠悠閑閑

真昼の夢

お気に入りの段ボールで寝ているムク。顔がどこにあるのか分からない。自然とカモフラージュされています

 欧州メーカーのEVへの傾倒は一気に進んでいる。ジャガー・ランドローバーのジャガーブランドは2025年までに一気にEV専業メーカーになると言い、ほぼ完成していたXJの次期モデルも日の目を見ることなく姿を消した。ランドローバーも今後5年で6割をBEV(バッテリーEV)にする計画で、将来の燃料電池も視野に入れて電動化に進むと発表した。あのランドローバーまでがと思わざるを得ないが、確かにEVの出力コントロール性のよさはオフロードには適している。しかし大きな出力が必要な重いバッテリーを積むとどれくらいの重量になるのだろう。根本的に作り方を変えないと難しそうだが、専用のプラットフォームも開発されるという。

 一方ボルボも2030年までにすべての新型をEVのみにするとしている。この秋に発売されるボルボ初のBEV、C40も最初の100台はサブスクで提供されるというのも驚いたが、ボルボ車の販売を将来オンラインに移行するという大胆な計画にはビックリした。

 日本ではどの販売店もクルマを売るだけではなく、登録や保険など多くの業務をこなしているが、現実的にどのように落としこんでいくのか、驚愕の中でも興味津々だ。

 欧州の厳しい燃費規制とカーボンフリーへの道程がプレミアムメーカーを突き動かしている。それにしても驚くことばかりである。

 日本では我々に関係の深い自動車メーカーでは現実路線を歩みつつ、粛々と改革を進めているように見える。他の重工業では日本製鉄はCO2排出量が大きいコークスから水素へ大規模な高炉変換に取り組むと発表した。JR東日本も近い将来、再生エネルギー由来の電力に切り替えるとしている。いろいろなところでカーボンニュートラルに向けて本格的に動き出そうとしているのをヒシヒシと感じる。高度成長期やバブル期のイケイケだった時代、そしてバブルの崩壊やリーマンショック、3・11などいろんな時代を見てきたが、これほど大きな変革を経験するのは初めてになるだろう。社会がガラリを変貌しようしている入口に立っている。

 と、ぼんやり考えていたら、足下で何やらガサゴソ動く気配が……。昼寝に飽きたムクがやってきて「遊ぼうぜっ!」と誘ってきたのだ。前足が短くて、まさに猫背スタイルのムクがチョコチョコと走り回り、ミンミンと鳴いているのを聞くと急速に現実に戻った。

前足が短くて、まさに猫背のムクはこんな格好で歩きます

 目の前のディスプレイには遅れ気味の原稿が踊っている。どうやらボンヤリと同じキーを押し続けていたようで、“ああああああああああ……”と文字が並んでいた。もちろん奇跡的に原稿ができてるはずもなく(ほぼすべての自動車ライターが見る夢だ)、クールなPCは冷たく文字を羅列しているだけだ。

窓際で遊ぼうと言ってます

 呆然としているじい様など頓着するはずもないムクにとって、動かない自分は暇そうに時間をつぶしているようにしか見えないのだろう。ミンミン、グルグル鳴きながら動き回る。もはやPCには戻れないと悟ったのちは、果てしなくカーテンや段ボール箱を攻防ラインとして隠れん坊が続くのだった。

 と言うわけで原稿は遅れます……。

仰向けヘソテンのムク。無防備すぎると思います
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。