日下部保雄の悠悠閑閑
プジョー 208 アリュール
2021年3月22日 00:00
ダイムラーと並んで最古の自動車メーカー、プジョー。最初に意識したのはやはり自動車年鑑などからの情報だった。204だったか、美しいデザインのボディに黄色いヘッドライトが印象的で、その時以来「プジョー=かっこいい」という構図が出来上がった。繊細そうだったが、過酷なサファリラリーに挑戦しているのを知り驚いた。そのとき以来、フランス人は冒険に躊躇しないんだと思ったのもプジョーの挑戦を知ってからだ。
最初にプジョーに乗ったのはモーターマガジン誌の取材で、自動車試験場のあった谷田部に行った時のことだった。多くの取材対象車の中に最新のプジョー 205 GTIがあり、スタッフ一同興味津々。軽量ボディによく回るエンジン、クイックなハンドリングで、ハツカネズミのように走りまわった。いかにもフランス車らしいオシャレなデザインのハッチバックだったが、残念ながらボクにはドラポジが合わなくて、乗りにくかった。その後何年か経って全日本ラリーに当時のインポーターだったARJ(オースチン・ローバージャパン)のサポートを受けた名手、綾部美津雄選手が全日本ラリー選手権にも出場し大活躍した。
もう1つ印象に残っているのはグループBの怪物マシン、205 T16だ。このマシンは当初は1.8リッタータ―ボエンジンを横置きにミッドシップに積んで4WD化したラリー専門のマシン。ホモロゲ―ションのために200台が作られ、ワークスカーはエボリューションモデルを使い、さらにハイパワー化、先鋭化して400PSは下らないと言われていた。
ボクが試乗させてもらったのは当時ユニークなプロモーションをしていたQUATTRO の小泉正徳さんが輸入したロードカー。ラリータイヤを履いてオフロードで走らせてもらったが、ショートホイールベースにドカンと出るトルク、重いハンドルでトラックのようだと思った。モータースポーツ専門誌が伝えるような滑らかな走りはやはりトップドライバー、ワークスカーならではのものだと思った。しかしマニュファクチャラーズチャンピオンを何回も獲得したあのターボ16のハンドルを握れたのは、津々見さんがアレンジしてくれたストラトス試乗と同じく得難い体験で今も感謝している。
こんなこともあってプジョーはずっと気になる存在だったが、友人が206のMTを見つけてくれウキウキと乗っていた時期があった。フランスの実用車らしく、曲がりくねった山道もクルマに任せて走ると気持ちよく、大きなロールをしながら踏ん張るルノーとはまた違うフランス車の世界を知って楽しい時間だった。
その206の血を引く208は昨年、広報車のGTを借りて街中から郊外まで乗ってみた。さらに引き締まった走りで、プジョーらしい洗練されたエクステリアと最新のインテリアで清々しかった。ただ205/45R17サイズのタイヤを履いたGTはクイックに曲がるときは素晴らしいが、小径ハンドルとの組み合わせはノンビリ走るにはちょっと神経質に感じたのも事実。
今回改めて乗る中間グレードのアリュールは195/55R16を履き、その他の機能部分はGTと変わらないがハンドルに伝わる入力が鈍くなって、気楽にハンドルを握ることができた。もう若くない自分にはこちらの方があっていると感じた次第。
ドライバーシートの目の前には視線の動きが少ない視認性がよいメーターがあり、その下にハンドルが位置する。ハンドルは必然的に小径になり、上下をカットした独特な形状だ。街角を曲がるときなど操舵量が少ない利点があり、それは山道でも同じだ。運転がやさしく感じるドライバーもいるに違いない。
アリュールはコーナーではGTのようなガッチリとグリップする感じではないが、ライントレース性も素直で結構スポーティな味は変わらない。
少し大きく感じるシートはやはりプジョーらしい乗り心地。柔らかいのではなくコシがあるもので、長時間でも同じ姿勢でいられるのは嬉しい。
Cセグメントと違って、至れり尽くせりの「おもてなし」ではないが、全車速追従ACCやLEDヘッドライトなど十分な装備を持ちながら、アリュールで262万9000円。輸入車としては買いやすいのではなかろうか。最近街中で見ることが多くなったのも納得だ。