日下部保雄の悠悠閑閑
メルセデス・ベンツの新型Sクラスに乗った
2021年4月12日 00:00
フルモデルチェンジしたSクラスに乗った。
Sクラスは8年ぶりのフルモデルチェンジだ。メルセデス・ベンツのフラグシップだけにどんな進化を遂げているのか興味津々だったが、1日借りて足を伸ばすことができた。
試乗したのは標準ホイールベースのS 500 4MATIC。ボディサイズは5180×1920×1505mm、ホイールベースも3105mmと従来モデルよりも少し大きくなっている。Sクラスらしい堂々としたものだが、デザインはヘッドライトが細くなってスポーティになり、絶妙な面やエッジで無駄がないフォルムだ。
大きくたっぷりしたシートに座るとSクラスらしいゆったりとした心持ちになる。目の前に広がるディスプレイは大きくクリア。ドイツ的正確さで見やすく整理されており、それだけでも心にゆとりが持てる。
多くの新型車が少ないスイッチで多くの機能を処理できるインターフェースを採用しているが、デジタル音痴の自分は目的の機能に行きつく前に力尽きることも少なくない。メルセデスといえども隠れている機能が多くあるが、操作はシンプルで理解しやすく抵抗感がない。
さて注目の乗り心地。誰しも青空を見上げるとそこに浮かぶ雲を見て気持ちよさそうだと感じると思うが、Sクラスの乗り心地はそんな雲の絨毯のようだった。もちろんクルマだからショックは伝わるし、揺れもする。それでもそう感じられるのは上下動の収束が穏やかに、しかも素早く、ピッチングもほとんど感じられないからだ。それでいて路面コンタクトがしっかりあり、鋭角的なショックはすべてカットされているのが素晴らしい。乗員に伝わるのは丸みのある凹凸感だけで心地よい。全モデルがエアサスでその完成度は高い。
これに近い感触と言えば、2020年に乗せてもらったロールス・ロイスのゴーストだ。どちらも素晴らしいのひと言に尽きる。
駆動方式は全モデル4MATICとなりビッグトルクにも対応する。これまで4MATICは左ハンドルでしか選べなかったが新型Sクラスは右ハンドルでも可能になり、邪魔だったフロアへの出っ張りも感じない。
試乗車はガソリンの直列6気筒3.0リッター。こちらも先代モデルから投入された新世代エンジンの48Vマイルドハイブリッドだ。スタートのけり出しは電気がサポートし、その後の低速回転域では電動スーパーチャージャーが、中速回転域からはツインスクロールターボで過給する。この凝ったシステムですこぶる滑らか。しかも速い。320kW(435PS)/520Nmの出力は予想以上だった。どこから踏んでも出力がモリモリと湧き出て、ドライバーの走りたいように反応してくれる。直列6気筒のよさは振動バランスの高さだが、改めてそれを感じた。
新型は確かにホイールベースも長く、サイズも大きい。しかしリアアクスルステアリング(4WS)がよくできており、最小回転半径はわずかに5.4m。取りまわしが極めていい。4WSの癖もなくてごく自然なのが好ましい。ちなみにバックで駐車してみたり、狭い路を曲がったりしてみたが違和感なくすんなりとクリアできてしまった。サイズを感じさせないのだ。速度やハンドル舵角などをよくモニタリングして後輪の逆相、同相を絶妙に動かす。
ワインディングロードではドライバーズカーに変身した。どっしりとしたSクラスの品格を崩さず、不思議なほど軽快で意のままになる。
快適なドライブを楽しめたSクラスだったが、駐車すると枠からはみ出しそうになって現実に戻った。やはりフラグシップは大きかった……。