日下部保雄の悠悠閑閑

メルセデス・ベンツの新型Sクラスに乗った

フルモデルチェンジしたSクラス。デジタルライトが印象的。必要に応じて極め付きに明るい

 フルモデルチェンジしたSクラスに乗った。

 Sクラスは8年ぶりのフルモデルチェンジだ。メルセデス・ベンツのフラグシップだけにどんな進化を遂げているのか興味津々だったが、1日借りて足を伸ばすことができた。

 試乗したのは標準ホイールベースのS 500 4MATIC。ボディサイズは5180×1920×1505mm、ホイールベースも3105mmと従来モデルよりも少し大きくなっている。Sクラスらしい堂々としたものだが、デザインはヘッドライトが細くなってスポーティになり、絶妙な面やエッジで無駄がないフォルムだ。

 大きくたっぷりしたシートに座るとSクラスらしいゆったりとした心持ちになる。目の前に広がるディスプレイは大きくクリア。ドイツ的正確さで見やすく整理されており、それだけでも心にゆとりが持てる。

 多くの新型車が少ないスイッチで多くの機能を処理できるインターフェースを採用しているが、デジタル音痴の自分は目的の機能に行きつく前に力尽きることも少なくない。メルセデスといえども隠れている機能が多くあるが、操作はシンプルで理解しやすく抵抗感がない。

写真は撮れなったがヘッドアップディスプレイ(HUD)はこれまで見たことないぐらい大きく見やすかった

 さて注目の乗り心地。誰しも青空を見上げるとそこに浮かぶ雲を見て気持ちよさそうだと感じると思うが、Sクラスの乗り心地はそんな雲の絨毯のようだった。もちろんクルマだからショックは伝わるし、揺れもする。それでもそう感じられるのは上下動の収束が穏やかに、しかも素早く、ピッチングもほとんど感じられないからだ。それでいて路面コンタクトがしっかりあり、鋭角的なショックはすべてカットされているのが素晴らしい。乗員に伝わるのは丸みのある凹凸感だけで心地よい。全モデルがエアサスでその完成度は高い。

 これに近い感触と言えば、2020年に乗せてもらったロールス・ロイスのゴーストだ。どちらも素晴らしいのひと言に尽きる。

「後席もぜひ」と言われたが、一人旅ではそれも叶わない。確かに居心地よさそう。やはりきちんと作られた正統派セダンの乗り心地は素晴らしかった。きっと後席も快適だろうな

 駆動方式は全モデル4MATICとなりビッグトルクにも対応する。これまで4MATICは左ハンドルでしか選べなかったが新型Sクラスは右ハンドルでも可能になり、邪魔だったフロアへの出っ張りも感じない。

 試乗車はガソリンの直列6気筒3.0リッター。こちらも先代モデルから投入された新世代エンジンの48Vマイルドハイブリッドだ。スタートのけり出しは電気がサポートし、その後の低速回転域では電動スーパーチャージャーが、中速回転域からはツインスクロールターボで過給する。この凝ったシステムですこぶる滑らか。しかも速い。320kW(435PS)/520Nmの出力は予想以上だった。どこから踏んでも出力がモリモリと湧き出て、ドライバーの走りたいように反応してくれる。直列6気筒のよさは振動バランスの高さだが、改めてそれを感じた。

直列6気筒 3.0リッター+48Vマイルドハイブリッド+電動スーパーチャージャー+ツインスクロールターボ……。ちなみに3.0リッターディーゼルターボもある

 新型は確かにホイールベースも長く、サイズも大きい。しかしリアアクスルステアリング(4WS)がよくできており、最小回転半径はわずかに5.4m。取りまわしが極めていい。4WSの癖もなくてごく自然なのが好ましい。ちなみにバックで駐車してみたり、狭い路を曲がったりしてみたが違和感なくすんなりとクリアできてしまった。サイズを感じさせないのだ。速度やハンドル舵角などをよくモニタリングして後輪の逆相、同相を絶妙に動かす。

 ワインディングロードではドライバーズカーに変身した。どっしりとしたSクラスの品格を崩さず、不思議なほど軽快で意のままになる。

 快適なドライブを楽しめたSクラスだったが、駐車すると枠からはみ出しそうになって現実に戻った。やはりフラグシップは大きかった……。

退屈そうなムクでした……。ボクもお外に出たいぞ~
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。