日下部保雄の悠悠閑閑

ふそうデザイン

大型トラックのプロトタイプデザインで、格好いい

 少し前になるが三菱ふそうトラック・バスのデザインプレゼンテンーションが行なわれた。日頃入ることはできないR&Dを見学する機会はそうそうないので感謝である。

 三菱ふそうはダイムラーグループの一員で世界最大級の商用車メーカーだ。本社は川崎にあり、新しいビルは最新の設備を備えて広々として働きやすそうだ。

 プレゼンの場であるデザインルームは天井が高く、大きなトラックを造形するふそうらしい。最初は小型トラックヘッドのクレイモデルを使って実際の作業の見学である。乗用車に比べると大きいなので、作業も大掛かり。力強さと他の交通とをバランスさせながら造形が進む。ここで最終形まで仕上げるのかと思いきや、さらにアルミ箔状のカラー素材を完成したクレイに張り付けて光の反射を確認する。これによって実際の面の形を修正するという。クラフトマンシップの技を見せてもらった。

左側がクレイモデルの地肌、右が最終形に近いクレイです

 次はふそうの主力モデルである小型トラックのキャンターの最新モデルを使ってふそうデザインの基調となっているブラックベルトの役割、それにカラーなどのプレゼンがあった。トラックは長い間使われる。それだけにふそうと分かる一貫性をもったデザインが大切で、その1つとしてフロントマスクに横に入ったブラックベルトはふそうのアイデンティティを示している。基幹となるデザインを決めることで、車両組み立て工程の効率化にも結び付くという。

 さらにキャンターだけでなく、大型バスのエアロエースや小型バスのローザにもブラックベルトを設けることでデザインの一貫性が保たれている。またふそうはボディサイズにかかわらず共通ヘッドライトを採用しているが、このブラックベルトと組み合わせることで製品開発の効率化にも大きな成果を上げることができたという。

キャンターをベースにしたプロダクトデザインの解説
カラー選定の説明
モデルチェンジしたキャンターに乗って興味津々。吉田由美さんに撮ってもらいました

 そして興味深かったのはアドバンスデザイン。急速な時代の変化をキャッチして将来のモビリティを予測することから始まる。ふそうでは世界で約700名のスタッフがこの仕事に従事しているという。

 ここでは2040年の社会はどのように変化し、モビリティには何が求められているかを想像し、将来のふそうの在り方を想定する大切な役割がある。

 今回は一例として自然災害に対して出動する自動運転の災害救助用のトラックと搭載されるドローンの模型が展示されていた。

I.RQの模型。燃料電池を動力とした全自動運転を想定している。興味深いタイヤに引き付けられました。シャシー、ボディ、パワートレーンがモジュール化して組み立てられ、ボディは用途に応じて載せ替え自由

 燃料電池を動力とする緊急車両、「I.RQ」(Intelligent.Rescue Truck)は高床式でガレ場も走破することを想定している。興味深かったのはチューブ状のものを横に巻き付けたようなユニークな着想のタイヤで、パンクせず路面を選ばないという。この形状なら高速で走るには向かないが、砂から岩場、雪まであらゆる路面を走破できそうだった。

 ボディとシャシー、アクスルはモジュール化されており、さまざまなバリエーションを乗せ換えることができる。基地を発進するときは塞がれた道路を開くダンプボディで、処理を終えて戻ってからはバン型ボディに載せ替えて被災者に資材を届けるために再度出動することを想定している。またヘリ型ドローンを搭載して現場近くから救援物資を輸送する母艦型ボディも考えられている。

 ヘリ型ドローン「Heri.Droid」は垂直方向の移動を可能にするので、災害に限らず物資の搬送の機動性は一段と向上するに違いない。

I.QRの内部にはヘリ型ドローンを搭載し、必要に応じて複数発進させる母艦の役割も果たす
ヘリ型ドローンの模型。全幅1.8mを想定しており、輸送力は大きそう

 さらに「マンタ」と呼ばれる洗練されてシンプルなデザインに進化したドローンも映像で見せてもらった。実際に模型を飛ばすことに成功しているという。とても既成のドローンの概念には収まらず、高速で飛べそうだ。

 できればこれらの救援機材のお世話にならない世界であってほしいが、ここでイメージされた車両、ドローンはさまざまな形で将来の物流においてふそうに活かされる。

 最後に見せてもらったのはVRだ。すでに実用化が進んでバーチャルデザインスタジオが世界で稼働しつつあり、各スタジオでゴーグルをつけたデザイナーが実車を見るように意見交換を行なうことができる。

 体験させてもらったが、かなりリアリティがあり驚いた。でも自分には30分は無理だな。酔いそうだ。

 今回はデザインをテーマにし、日頃何気なく見ている商用車のストーリーを知ることができるという得難い経験ができた。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。