日下部保雄の悠悠閑閑
2台のキャデラック
2021年5月10日 00:00
久々のキャデラック。GMと言えば過去に8つものブランドを持ったメーカーだが現在はシボレー、ビュイック、キャデラック、GMCの4つに絞らており、伝統ポンティアックやオールズモビルなどはリーマンショックの時に消滅している。現在日本で正規に輸入されているのはシボレーとキャデラックの2ブランドに限られ、シボレーはコルベットとカマロの2機種。キャデラックは唯一のセダンCTとSUVのXT、エスカレードがある。日本で受け入れられそうなアメリカならではのモデルだ。
今回試乗したのはセダンのCT5とSUVのXT4で、いずれも4気筒2.0リッターターボの同じエンジンを搭載している。XT4は横置きFFベースのAWDで、ボディサイズは4605×1875×1625mm(全長×全幅×全高)と、日本でも許容レベルのサイズに入るがコンペティターも多く競争は激しい。
XT4の特徴はキャデラックのラインアップの中ではコンパクトと位置づけられ、手を抜かないキャデラック流の豪華さを持ちながら、フランクなところを感じる。シリーズの入り口にあるXTシリーズの末弟だからこそだろう。ちなみにたっぷりしたシートクッションを持つリアシートはこのクラス最大のレッグスペースを持ち、ラゲージを含めたスペース効率はかなり高い。
さて、試乗。左ハンドルに狭い駐車場、身構えて走り始めたが困ったのは料金所が右側にあるゲートだけ。もっともスタッフが手際よく済ませてくれたので難なく雨の東京に乗り出した。エンジンは169kW/350Nmで低速回転からトルクの立ち上がりが早いのが特徴。ツインスクロールターボによってアクセルのツキがよいエンジンは結果的に無駄なアクセルワークが少なく燃費の向上にも効果的だ。それに条件が許せば気筒休止するGM得意の技術も盛り込まれていたが、高速道路のクルージング中も2気筒でも全く分からなかった。
また9速ATで小刻みに変速し、燃費向上はこれでもかというぐらい努力が払われている。さらにオンデマンドタイプのAWDはツインクラッチによって後輪への駆動を完全に切り離すことができ、フリクションを減らしている。その燃費改善効果は小さくないだろう。ハイブリッドを持たないからこそ、メカ的ロスには気を使っている。
車重1760kgのXT4は予想よりはるかに軽快で、245/45R20のコンチネンタル「プレミアム・コンタクト6」を履き、サスペンション設定もスポーティだった。試乗したスポーツグレードのダンパーはリアルタイムダンピングサスペンションを採用し、電子制御によって瞬時に減衰力を変え、路面の追従性が高いのが特徴。どのようにも設定できるが、高速道路での接地感や軽やかなハンドリングはこの組み合わせによるところが大きいようだ。
キャデラックらしからぬ軽快な動きは意外と感じたが、本国ではコンパクトに分類されるXT4と考えると、シリーズとしてのヒエラルキーのバランスは取れている。
続いてCT5に試乗。ぐんと低い精悍なスタイルはキャデラックの言葉の響きが持つ鷹揚さと無縁で、シャープなスポーツセダン然とした佇まいだ。
エンジンはXT4と同じエンジンを縦置きに積む。出力も同じだ。こちらは後輪駆動でスポーツグレードはAWDとなっている。
ボディサイズは4925×1895×1445mm(全長×全幅×全高)と大きい。そしてXT同様左ハンドルのみの設定となる。
インテリアは12インチデジタルメーターディスプレイこそ備えるが、オーソドックスなレイアウトで安心感があり、落ち着いた内装は伝統の高級車を感じさせる。低いドラポジは安定していて、ドッシリした走りのよさをすぐに実感できる。市街地ではエンジンやロードノイズがうまく処理されており静かだ。都会を粛々と走り出す。オーディオから流れる音もクリアで聞きやすい。
高速道路に乗るとさらにクルマの安定感が光る。ドイツ車とも違った味わいはアメリカの荒れたハイウェイで鍛えられた脚だろうか。路面の凹凸や段差などのショック吸収がゆったりしていながらピタリと収まるのは秀逸だ。
少しだけ重めに設定された操舵力はスポーツセダンのキャラクターによく合っている。レーンチェンジのような微小舵から市街地を曲がる大舵角まで、シットリして手になじむ。曲がりくねった首都高から都市部までクルマを運転する楽しさを味わうことができた。
CT5はファストバックボディの4ドア+トランク。外からは一見小さく見える後席も、座ってみるとレッグルームも含めて想以上にゆったりしている。
2台のキャデラックは、同クラス他車に比べて実質価格が安価に設定されており、出来のよいACCなど装備比較でも見劣りしない。自分にとって安心できる大切な走りを含めて改めて見直した。特にCT5のしっとりした走りのよさに感動すら覚えた。