日下部保雄の悠悠閑閑

エスティマとの長い縁

小西重幸君のガレージA/m/sを前にショックアブソーバーを交換したエスティマと

 今まで乗ってきたクルマは数多くそれぞれ想い出深いクルマばかりだが、同じ車種を何台も続けて乗っていたのは実はエスティマだけだ。

 エスティマは初代からなんと5台も乗り続けてきた。初代の登場が1990年だから、かれこれ約30年の付き合いになる。非凡なサイズとパッケージは今も共感できるところが多く、ライフステージに貴重な時を経験させてくれた。

 初代はキャブオーバー車から抜け出した本格的なワゴン専用車。明るく広いキャビンと揺れの少ない乗り心地、そして安定したハンドリングが他を圧しており惚れ込んだ。

 直列4気筒エンジンを床下に75度傾けてミッドマウントしたことでキャビンは広々としており合理的な設計。この初代には後期型のスーパーチャージャーと2台乗り継いだ。

 ただ革新的なメカニズムは無理もあり、トヨタらしくない整備性のわるさもあった。

 ショックアブソーバーを交換した時の話。オリジナルのショックアブソーバーでも不満はなかったが調整式にトライしたくて、ラリーの名門TUSK Engineeringで交換してもらった。ラリー車の修理ならあっと言う間にやっつけてしまう猛者たちがやけに時間がかかっているなと思ったら、ブツブツ言いながらダッシュパネルをばらしていたのだ。確かにストラットマウントのナットを回すにはダッシュパネルを外さないとできそうもない。

 それでも作業はさすがに早かった。しかしダッシュパネルを装着したあとはストラットトップにある調整ネジを回すのは至難なことに気が付き、減衰力曲線を見て1回決めたらあとは滅多にやらなかったのはお察しの通りである。しかしリアは乗員や荷物によってショックアブソーバー横にあるダイヤルで調整できたので、結構重宝した。

 3台目のエスティマからはカムリベースのFFになり、ウチのエスティマも革新的なE-Fourになった。エスティマ ハイブリッドは4輪制御による高い安全思想が詰まっており、その魔法のようなシステムには感動さえ覚えた。この時説明してくれたハイブリッドの父であり、姿勢安定制御を構築した内山田さんの揺るがない信念に感銘を受けたのはつい昨日のことのようだ。

 そしてエスティマ ハイブリッドは期待を裏切らず、安定感の高さと燃費、電源車としての活躍は素晴らしかった。

 現在のエスティマは5台目だ。第3世代のエスティマで歴史に終止符が打たれたがその分寿命が長かったので2台乗り継いでいる。現在あるエスティマは9年目ですでに10万kmに突入しているが、平均燃費は落ちたとはいえ平均10km/Lは走ってくれるし、トラブルが全くないのはさすがだ。

 ここまでしつこくエスティマにこだわっているのは何よりもサイズが使いやすい。全長4795mmにホイールベースは2950mmと長く、ピッチングが少ない。床下収納できる3列シートもクッションストロークがあってレッグルームも広く、常時使えるシートなのだ。3列目シートの収納空間はアンダートランクになり、しかも容量が大きいので人数分の荷物が載せられたのもありがたかった。それに幅も1800mmと大きさを感じない。ノア/ヴォクもよくできているし、アル/ヴェルの静粛性や乗り心地も素晴らしいけど、やはり長いこと使っているエスティマ ハイブリッドは体になじんでいる。惜しかったのは、ストームトルーパーみたいな最終型エスティマへの買い替えタイミングを逸してしまったことだ。

そこそこ快適な3列目を床下に収納した状態。横に畳むタイプよりスペース効率はよい。2列目シートが畳めないのが難点だけど乗り心地がよいので文句なし

 そして10万kmを越えたところでショックアブソーバーを交換してみた、タイヤは2セット目になるミニバンタイヤの傑作ではないかと思っているBluEarth RV-02。相性もあるがKYBのNEW SRとのマッチングもどんなものだろうと思った。

ストラットとBluEarth RV02のコンビになりました
KYBのNEW SR ストラット
装着したリアの復筒ショックアブサーバー

 交換作業はラリーのズーッと後輩にあたる小西重幸君が主宰するA/m/sで行なったが、さすがに初代エスティマで必要だった手品のような作業はなく、エンジンルーム後方のスカットルパネルを外すとすぐにストラットのトップマウントが出てくる。

 整備性もさすがトヨタで敏腕の諸隈メカもあまりすることがなく淡々と作業を消化していく。自分はといえば、2階の事務所で70~80年代の懐かしいWRCのDVDを観ていただけだった。

 久しぶりの NEW SRはノーマルバネとの相性もよく、前後とも少しだけ減衰力が高く設定されていた。構造はKYBが得意とするシンプルなツインチューブで最初の印象はメリハリのある締まった印象。フラット路面では剛性感があって期待どおりだ。凹凸のある荒れた路面では少し硬めだが、もっと荷重がかかるとよさそうだ。装着したばかりなのでもう少しなじんでからまたレポートしよう。

 今のところタイヤ構造とのマッチングもよく、ミニバン用タイヤでエスティマは少しスポーティになった印象だ。全くトラブルなくここまで乗ってきたエスティマ。まだまだ乗るのが楽しみになってきた。

乗り物は何でも好きな小西君はジャイロをもらってきて遊んでました。ちょっと乗りたい……
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。