日下部保雄の悠悠閑閑

ラリー・ジャパンが見たい!

2019年のWRCのプレイベントとして開催されたセントラルラリーでぶっちぎりで優勝した勝田貴元選手のヤリスWRC

 次々と開催取りやめとなったモータースポーツのビッグイベント。とうとうラリー・ジャパンも中止が発表となってしまった。行く気満々だったのに残念!! すべてコロナ禍の影響である。

 今年のラリー・ジャパンは現行の車両規則で開催される最後のWRCになるはずで、ヤリスWRCを実戦で見る最後のチャンスだったのだが……。

 7月にはWECの中止が決まり、日本で初めて走るハイパーカーも見ることはできなくなってしまったし、夏の風物詩になりつつあるGTカーによる鈴鹿10時間耐久も中止、ホンダ最後のF1となる日本GPも中止となって、ラリー・ジャパンも危うかったが現実のものとなってしまった。欧州ではWRCやF1が開催されているのを考えると複雑な心境だが、コロナ禍では海外から多くの人が往来するモータースポーツは日本では難しい。

 WRカーのスピードは圧倒的だ。一昨年のセントラルで見せた勝田貴元選手のヤリスWRCがR5のマシンを予想以上の速さで引き離してしまったことは衝撃的だった。そのR5も全日本でのJN1マシンに比べると格段の速さなので、世界の腕利きの手になるファクトリーチームのWRカーの強さはどれだけのものだったか。

新井大樹選手のシトロエンR5。WRカーより100PS以上パワーが少なくなっています。それでも仮ナンバーで限定走行しかできません。直前までトラブルシューティングに追われていましたが、見事2位に入りました

 今シーズン、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(TGR-WRT)最大のライバル、ヒュンダイが自滅気味に星を落としてしまったのでTGRは優位にポイントを重ねている。12日に終了するアクロポリス、続いて1000湖(ラリー・フィンランドだけど1000湖の方が馴染みがあるのでつい使ってしまう)、スペインと3戦残っているのでまだ予断を許さないがTGRとエース、オジェの強さは変わりなさそうだ。

 ところで今年WECのマシンがハイパーカーになったようにWRCも2022年から競技車両のルールが変わる。1997年から続いていたWRカーからラリー1になるのだ。ラリー1は簡単に言うとFIAのチューブラースペースフレームに量産車のボディ(正確には似せた)を被せて、決められたハイブリッドシステム(3.9kWhのバッテリー+100kW/180Nmのモーター)を搭載する4WDラリーカーになる予定だ。エンジンは1.6リッターターボで現在使われているエンジンを使用するが、年間使える数は1台につき2基と厳しい。目的は厳しい制限を設けることで年間経費の大幅な削減を目指すとされる。予定と言っても2022年開幕戦のモンテカルロまであと4か月しかないので、マニュファクチャーでは急ピッチで仕上げに入っているだろう。

 ラリー情報はなかなか入ってこないが河野亜希子さんが主宰するサンクから出版され、三栄書房から販売されている「RALLY+」や「RALLY CAR」に詳しく紹介されている。見ているだけでも楽しく、駆け出し時代のオートテクニックを思い出し、僕の愛読書でもある。

 さて、トップカテゴリーのラリーカーは現実の量産車とはどんどん乖離してしまったが、もはやラリー車ベースになる安価でコンパクトなハイパワー+4WDを作れるメーカーは限られており、自動車の変革期という現実を見ると時代の趨勢を感じる。

 多彩なメーカーのラリーカーが走っていた夢多き時代は過去のものになってしまったが、ラリー1もラリー2も日本で走らせるにはまだまだハードルが高い。この先ラリーにはどんな世界が待っているんだろう。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。