日下部保雄の悠悠閑閑

トヨタの電池開発と生産

アクアに駆動用バッテリーとして搭載されるのバイポーラ型ニッケル水素電池

 コロナ禍ですっかりオンライン会議が当たり前になったのはどの世界でも同じ。自動車業界でもオンラインでプレゼンが頻繁に行なわれている。以前よりも機会ははるかに増えた。

 また技術発表の機会も増えて、例えばトヨタでは電池戦略についての興味深いプレゼンがあった。TVでも大きく取り上げられていたのでご存知の方も多いだろう。

 そのプレゼンではニッケル水素電池を見直すことになったアクアに搭載されたバイポーラ型バッテリーに触れながら今後の見通しなどを主としてCTOの前田昌彦さんが解説した。

 まずなぜトヨタがハイブリッドにこだわるかの前段があった。世界のCO2排出量は増え続けており削減には待ったなしだが、行程には2つの道があり、再生可能エネルギーがこれから普及する地域ではHEV(ハイブリッド車)でCO2削減の時間を稼ぎ、すでに再エネが活用できる地域ではZEV(ゼロエミッション・ビークル)の加速が望ましいとしている。

 トヨタの試算ではHEV3台でBEV(電気自動車)1台のCO2削減効果があるが、2030年度でもBEV+FCEV(燃料電池車)比率は電動車全体の4分の1に留まるという(意外と多いと感じたが、そのペースでは普及が足りないということだろう)。温暖化がもたらす昨今の山火事や巨大台風などの異常気象を目の当たりにすると産業構造の変革の必要性を世界の人が肌で感じている。

 トヨタの電池開発のコンセプトは地道に改善を積み重ねることだ。アクアのバイポーラ型ニッケル水素は発想を変えることで誕生した。一時に大きな電気を流すことが可能な瞬発力がHEVに適しており、今後も搭載車種は増えていく。電池素材が比較的安価なのもメリットだ。ではすべてのバッテリーがバイポーラ型ニッケル水素に置き換わるかと言えばそうでもない。リチウムイオンは航続距離が要求され高い持久性が必要とされるBEVに適しているとされる。今後も材料進化や固体電池に向けて開発され、低コスト、小型、長寿命を目指すことになるという。

トヨタが製作した全固体電池を搭載した車両。2020年8月には世界で初めてナンバーを取得して試験走行が行なわれ、YouTube(https://youtu.be/syOegAKcL9Aで走行動画が公開された

 トヨタは量産メーカーとして常に良品廉価、高性能を目指しているだけあって、経年変化によるハイブリッドカーの電池容量のキープは世界トップレベル。つまりリセールバリューも高くなるというわけだ。

 ウチのエスティマ ハイブリッドも10万kmを経過して燃費が悪化したとはいえ、10km/Lのアベレージを記録しているのは大したものだ。

 さらに将来の電池は材料や製造プロセス、電池パックなどのコストを30%カット、車両側の走行抵抗の低減や、回生の強化などで30%電費削減(つまり30%の電気容量のカット)によって、電池に関連して台当たりコストの50%カットを目標としている。原理原則を地道に実践するトヨタらしい。

 今後、開発や電池の生産ラインの飛躍的な増加に向けて2030年までに1.5兆円を投資すると発表して大きなニュースとなった。ここまで来て本格的なBEVの量産体制が敷かれることになるのだろう。そしてトヨタの専用BEVは2022年半ばに発表されるbZシリーズ「bZ4X」から始まる。

4月に上海モーターショーで世界初公開されたEVシリーズのコンセプトモデル「TOYOTA bZ4X Concept」は、トヨタとスバルが共同開発したEV専用のe-TNGAプラットフォームを採用する4WDモデル。bZシリーズはこのbZ4Xを含めて7車種が導入される計画だ
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。