日下部保雄の悠悠閑閑
カローラH2コンセプト
2021年10月4日 00:00
カローラH2コンセプトは参加3戦目の鈴鹿ではGRヤリスを上まわる約280PSの出力を出し、当初はST-5と同じようなストレートスピードだったが、鈴鹿ではST-4に負けないぐらいになったという。ST-5クラスは1.5リッターのロードスターやフィットだが、ST-4になると2.0リッターの86などになり、それらに遜色ないストレートスピードとなるとドライバーズシートから見える世界が違ってくるだろう。
富士では水素の異常燃焼が課題だったが、鈴鹿ではそれを克服してトルクも中速トルクも出せるようになったという。ドライバーからすれば中速トルクが出るとコーナーでの脱出速度が速くなって、グンと乗りやすくなったのではないかと思う。
その出力特性に合わせてピッチングをうまくコントロールできるAWDの前後トルク配分を変えたことで、クルマの姿勢変化を作りやすくなったという。クルマ作りがモータースポーツの現場から生産車にフィードバックできると考えると楽しい。エンジンがシャシーを助けているというのも面白い。
さらにクルマが速くなったことで鈴鹿の高速名物コーナー、130Rで空力デバイスについても議論できるようなったという。
量産車だと130R手前ではアクセルオフか軽いブレーキで姿勢を整えてからラインを見定めて一気に飛び込んで行くイメージだが、今回のカローラはどうなんだろう? 確かに高速コーナーでは空力デバイスは効果がありそうだ。
鈴鹿での予選ラップはクリアラップが取れたこともあり2分28秒ぐらいだったと記憶するが、ST-5を上まわってなかなか速い。
また、課題だった燃費も出力が上がっても変わらない燃費を維持しており、次の岡山ではさらに燃費向上を目指して開発するという。燃焼の可視化で空気、水素、圧力の最適化がしやすくなったというのが、文系の自分にはチンプンカンプンだ。要するにパワーアップと燃費の両立はガソリン車に比べてまだまだ開発の余地が十分にあるということらしい。
レース後の燃費に関しては、気温に対して水素はガソリンよりシビアだというコメントがあったのも実戦でこそ得られる成果だろう。
モータースポーツでの開発は極めて短い時間で行なわれ、次までに問題点を解決しなければならないのは言うまでもない。カローラH2コンセプトも短時間で急速に進化している。どこがゴールなのか明快な答えは得られなかったが、水素エンジンを一過性のものにはせず、継続して開発される。
前回は川崎重工の内燃機エンジニア達の心に火が付いたと紹介したが、これはサプライヤーも同様。この輪を広げることでガソリンのみに頼らない水素社会を実現するのが最終的な姿かもしれない。
欧米メーカーもこの取り組みに興味を示しており、問い合わせもあるという。実はカローラH2コンセプトレーシングカーの競技ルールはFIAの協力の下に決められており、日本単独のルールではない。将来FIAの規格が決まれば、他国でも水素エンジンがレースで走る可能性もある。エネルギーを電気だけに絞るのに躊躇しているメーカーがあるということだろう。
まだ水素のインフラが整うまで時間がかかり、水素そのものも高コストだ。それを運ぶのも規格や物流など乗り越えなければならない壁は高い。水素は始まったばかり。この取り組みはカーボンニュートラルの実態を明らかにする目的もある。
トヨタは2030年までにバッテリーEVに向けて1.5兆円の投資を発表している。水素と電気と低燃費技術で全方位でのクルマ社会を目指している。トヨタの底力は計り知れない。