日下部保雄の悠悠閑閑

ルノー・アルカナに乗った

日本導入はこのRSラインのみ。クーペSUVらしく背が高いが1580mmと使いやすそうだ。全幅も1820mmと日本でも使えそう

 フルハイブリッドは日本の専売特許だったが、ルノーがアルカナで提案したのはまさに欧州型のフルハイブリッドだ。そして欧州初のフルハイブリッドでもある。

 日本では1月の東京オートサロンにさりげなく展示されていたが、フルハイブリッドと知って俄然興味が湧いた。

 アルカナはルノー・日産・三菱アライアンスのCMF-BプラットフォームでCセグメントに属するクーペSUVになる。サイズは4670mm×1820mm×1580mm(全長×全幅×全高)でホイールベースは2720mm。そしてSUVらしく最低地上高は200mmと高い。

 E-TECH HYBRIDと呼ばれるハイブリッドシステムは、1.6リッターNAエンジンと1個の駆動用モーター、そして高電圧のスタータージェネレーターとドグクラッチ+ギヤ式トランスミッションで成立している。

1.6リッターのH4M型NAエンジンの出力は69kW/148Nm。駆動用モーターは36kW/205Nmでコンパクトに収まっている。FFのみです

 新しい機構を理解するのはいつも難しい。実は今でも理解しているかと言えば怪しいが、極めてシンプルに解釈すると、エンジンを主体として駆動用モーターでの走行を可能にしているのはトヨタ式のシリーズパラレル型と同じだが、ルノーでは遊星歯車の代わりにエンジン側に4速、モーター側に2速のギヤを設け、その変速の同調にはシンクロメッシュの代わりにドグクラッチを使っているのが特徴だ。

 ドグクラッチはラリーやレースでは一般的で、ラリー車でもテストさせてもらったことがある。マニュアルシフトで変速にクラッチを使わない分早いが、シフトレバーに伝わるショックは激しくて閉口した。E-TECH HYBRIDではこのような変速に伴うショックをなくすために高電圧のスタータージェネレーターを活用し、シンクロさせて変速を滑らかにする。

 トランスミッションのギヤ比は計算上は14速になり、実際には似たギヤ比があるので12速の中からアクセル開度やバッテリ残量に応じてどのギヤ比を選ぶか決定している。バッテリーはリチウムイオンで、1.2kWh/205Vと容量に余裕がある。

 では実際にはどうなのか。スタートはバッテリ残量がある限り駆動用モーターでEV同様に走り出す。モーター出力は205Nmのトルクがあって滑らかな加速だ。そのままユックリ加速すると40km/hほどでエンジンが始動するが、その境目は分からない。駆動モーターは常にICE(内燃機関エンジン)をサポートしている。アクセルレスポンスのよさはアルカナの魅力の1つだ。さらに80km/h以上の高速になるとエンジン主体の走行になる。ストロングハイブリッドらしい電気と内燃機のいいとこ取りだ。

 さらにギヤを頻繁に切り替えるような山道、そしてアクセル開度の大きくなるストレートなど、多くのシチュエーションで試してみた。

 結果はマメな変速にもかかわらず、ショックはほとんど感じることはない。ほとんどとしたのはパーシャル状態からアクセルを開けたり閉じたりするような場面では、迷ってからパシャンという感じで変速をすることが一瞬あったからだ。しかし走行リズムを乱すほどでもなく、レスポンスのいいE-TECH HYBRIDの基本性能は変わらなかった。

RSラインだけにスポーツシートや赤いアクセントラインがスポーティ

 気になるところと言えば、ブレーキのペダルタッチが繊細でもう少しストロークがほしいところ。微妙に減速したい時など少し気を使った。アルカナの回生ブレーキは95%のエネルギーを回収できるという。WLTCモード燃費は22.8km/Lとハイオクを使うとはいえかなり期待できる燃費だ。

 乗り心地はルノーとしては少し固めな感じなのは試乗車がRSラインだったからなのかもしれないが、サスペンションがフロント:ストラット、リア:トーションビームの一般的な形式だがかなり快適な仕上がりだと思う。

 このE-TECH HYBRIDは今後のルノーの中核を担うメカニズムで、システムがコンパクトなこともあり、ひとまわり小さいBセグの車種にも展開されるという。ちなみに本国フランスでも好評で2021年の4月~12月の販売は6万台を記録しており、これはルノーの販売台数の中でも3番目になるという。本国のアルカナにはガソリン車もあるがHV比率は56%と高い数字でE-TECH HYBRIDに対する関心の高さがうかがえる。

タイヤは215/55R18Hのクムホ・ECSTA HS51を履く。ソツなくバランスのとれたタイヤだった
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。