日下部保雄の悠悠閑閑

日産アリアと「たま電気自動車」

日産・アリア。ローアングルで見るとヌメっとしているところがBEV感がありました

 まだ発売されてなかったんだっけ? と日産・アリア。半導体不足はアリアにも直撃して販売が大幅に遅れている。ただし事前に予約販売されたB6 Limitedはそろそろ納車されているので街中で見られることもあるかもしれない。

 試乗したのはそのB6のFF。アリアには66kWhのバッテリを搭載するB6と91kWhのB9が用意され、それぞれにe-4ORCEと呼ばれるツインモーターの4WDがある。ただ現在は66kWhのFFのみが販売され、B9とe-4ORCEはもうしばらく後になりそうだ。

斜め後ろからの図。空気をどう流したいのかよく分かります。2本のシャークフィンアンテナはそれだけ通信量が多いということなのかな

 公道に乗り出して「オッ!」と思ったのはその静粛性。音と振動の源である内燃機を持たないBEVが静かなのは当たり前だが、アリアはさらに徹底した遮音対策が施されていた。

 BEVにとっての音源はモーターと風切り音、そしてロードノイズだが、内燃機のようにエンジンノイズでマスキングされない分、これらの音が大きいとさらに目立つことがある。

 アリアでは新規プラットフォームとボディの開発に遮音性を織り込み、さらに後付けでできるものとしては吸音材をフロアからダッシュ―ボードに配置して、モーターの高周波ノイズやロードノイズをカット。さらにカーペットに吸音効果の高いものを敷くことで遮音性を高めている。

 試乗車のタイヤはダンロップのSP SPORT MAXX 050でサイズは235/55R19。ダンロップは以前よりタイヤ内側に吸音材のスポンジを貼り、低周波の吸音効果を高めたタイヤを販売して長い。他社も採用しているがダンロップは経験が長いだけに耐久性などのノウハウも高いと予想される。

アリアの19インチタイヤ。ダンロップの吸音スポンジ入りタイヤが装着されていた

 また、サイドガラスにはノート オーラにも使われていた遮音ガラスが使われ、風切り音も耳に届かない。

 アリアのキャビンはこの価格帯のクルマとしては望外に静かで心地よい。無音でもないし何の音かも感じられるが、車体剛性の高さと相まって守られている安心感がある。

 キャビンは水平方向に広々としたインテリアで、スッキリとして落ち着きがあり上品。ホイールベースは2775mmだがパワートレーンがコンパクトなことを活かして室内長が長くとれ、後席のレッグルームもタップリしてキャビンは広くて心地よい。

 さらに、ほとんどのBEVがそうであるようにアリアも、フロア下に重いバッテリを敷き詰めた構造上、重心高は低くロールの少ない姿勢安定性は市街地でも十分に分かる。

 試乗車では、上下収束に滑らかさがほしかったのとハンドル切り始めの操舵力が重いこともあり、微妙な操作がしにくかった点がちょっと残念だ。

 この後に続くe-4ORCEは電動4WDのノート オーラ 4WDが素晴らしかったので、アリアも期待できるに違いない。

 ところで試乗会場にさりげなく置いてあった「たま電気自動車」。戦時中は練習機や中島の戦闘機などを生産していた立川飛行機の流れをくむ「東京電気自動車」が戦後に生産した日本初の量産電気自動車だ。「たま」は会社が多摩にあったことから命名されたという。その後、東京電気自動車はプリンス自動車の前身となり、さらに日産と合併したことで「たま電気自動車」は日産リーフのご先祖様にあたることになった。

たま電気自動車。アリアのご先祖様。今から75年前のBEV(バッテリ電気自動車)です。ガソリンが配給制だった時代に豊富な電力を活かそうということから企画されました

「たま電気自動車」の志も技術も高かったが、バッテリの高騰やガソリンの安定供給が始まり1951年、生産は中止されガソリン車に道を譲った。

 鉛バッテリで航続距離は65km、後の改良型で200km走行可能だというから素晴らしい。主としてタクシーで使われ、振動がなく静かで乗客には好評だったという。

 1947年製の「たま電気自動車」は有志の手でレストアされ、数多くの歴史を作った名車達と共に座間の日産ヘリテージコレクションに動態保存されている。

 日産最新のアリアと75年前のたま号、先人の努力に少しでも触れることができてうれしい。

羽田から離陸していく旅客機。まさに青空に向かって脚を引き込もうとしてしてます。気持ちが解放された
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。