日下部保雄の悠悠閑閑

ロータス・エランでレースに出た

昭和じゃなくて、令和のピット。ロータス・エランとフェアレディ2000が並んでメンテナンス受けてます

 倉敷のベレット乗り、日下総一郎さんから連絡をもらったのはだいぶ前。5月に岡山でエランに乗らない? とのお誘い。もちろんOK!

 ロータス・エランは憧れのライトウェイトスポーツ。高校生のころ、滝進太郎さんや浮谷東次郎選手がハンドルを握るレーシングエランのカッコよさは異次元だった。

 乗せてもらうのはエラン S4。1962年にスタートしたエランの最後期型で1968年から生産が始まり、1973年ごろまで生産されていた。後に加わった+2以外はキットカーとしても入手可能だったので、バックヤードビルダーがコツコツと作っていく楽しみもあった。いかにもイギリスらしい。

 X型のバックボーンにサスペンションとパワートレーンを取り付けて、FRP製のボディを乗せたエランは重量670kgぐらいだとされているが、とにかく軽い。エンジンはフォードベースをロータスが開発したツインカム1.6リッター+ウェーバーキャブレター。これだけでもおいしそうでしょ?

ロータスのコンパクトなツインカム。ウェーバーキャブが誇らしい。倉敷の職人、チェックの腕が光ってます

 オーナーは三菱ラリーチームに属していた古茶重さん。エランとは20年以上の付き合いでサーキットレースだけで楽しんでいる。自分も同じレースでよく一緒に遊んでもらった。

 実はこのエランには岡山にある中山サーキットで乗せてもらったことがある。残念ながらシートが固定でクラッチペダルに足が届かず、ミートスポットの極めて狭いドッグクラッチに手こずって、スタートできたのは1回だけだった。しかし走ればエランの軽快な動きに驚き、数周させてもらった。

 レースは1時間耐久でメンバーは前回の筑波と同じ古茶さんと今年ヤリスカップに燃える(?)三好正巳さん。でも当日古茶さんはスプリントと掛け持ちだから耐久は2人で行け、ということになり三好さんと分担することになった。

タイヤはADVAN A050の185/55R14を前後に履いてます。岡山国際ではレース終了後もまだ十分使えそうな状態でした。クルマが軽いのも効いてますね。きっと

 前にチョイ乗りしたことがあると言っても本格的にエランに乗るのは初めてに等しい。練習走行も予選もないのでまさにぶっつけ本番。なんとかなるだろうと思っていたのが甘かった。

 しかし今回からトランスミッションは86用を組み合わせ、クラッチも通常の強化タイプになっておりだいぶ楽なはずだ。そして何よりシートバックにクッションを入れたので足も届く!

エランのコクピット。クッション、つまりバスマットを入れてペダルに足が届くようになりました

 ル・マン式スタートから飛び出した三好さん、しかし間もなくなんと! 間違って出されたオレンジボールでピットイン。その間に交代してピットアウトするが、なんとなくシックリこない。自分にはアクセルとブレーキの間隔が狭く、一緒に踏むという恐ろしいことをやらかしていたのだ。なんで減速しないんだろうと泡を食った。

ル・マン式スタート。反対側から走ってきたスタッフがクルマにタッチしてスタートする。ピットウオールを駆け上る走る方も必死。エランがコンパクトなのが分かります

 ハンドルを切るとスイと曲がるが、オーバーステアになりそうな気もして、まだまだエランの実力の半分も出せない。グイとアクセルを踏みたいんだけど臆病虫が顔を出す。

 次々と現れるミニの大群を交わしながら(このレースはクラッシックミニの祭典で、そこに混ぜさせてもらっている)、少しずつエランにも慣れてブレーキでも加速しないようになったが、心配なのはハンドルを受け取ってからスミスの水温計がプルプル震えながら100℃以上を示していることだ。慌ててほかのメーターを見ると油温は適正値だし油圧も6kgほどある。回転を落としてクールダウンしていたらいつの間にか95℃ぐらいを指すようになった。クルマによっていろいろ癖があるもんだ。

 エランは軽くて加速が鋭く、全面投影面積の少ないボディ形状で直線も伸びる。コーナーではバカ速いチューニングミニが迫ってくるが、直線の速さは群を抜いているので余裕がある。

メーターは7600回転ぐらいに赤マークがありました、でも実際には高回転でのトルクもあったので7000回転シフトでも結構速い

 残り20分を残したところで三好さんに交代。グイグイと後続を離していき、無事フィニッシュ。結果は謎のオレンジボールとSC中でのピットインタイミングが合わず、さらに重いハンディキャップで下位に埋もれたのでした。

 しかし、鬼才コーリン・チャップマンのひらめきから生まれたライトウェイトスポーツカーの神髄に触れて至福のひとときだった。いろいろ面倒を見てくれた日下君、オーナーの古茶さん、チェックガレージの職人社長、そして一緒に走ってくれたミニの皆さん、ありがとうございました!

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。