日下部保雄の悠悠閑閑

GRカローラの原点

奥にあるGRカローラと、手前のマットスティールがモリゾウエディション

 かつてカローラはトヨタのモータースポーツを支え、誰でも手の届くスポーツ車両として人気を博していた。WRCではミッコラの駆るTE27がスピードラリーで名高い1000湖ラリーで優勝したのは衝撃だったのだ。日本車も速さで世界に出て行けるのだと感動したものだ。GRカローラの復活は豊田章男社長の最初の愛車がTE71、カローラ1600GTだったことから始まる。その楽しさが強く心に残り、いつかカローラのスポーツ性を引き出したクルマをとの思いから誕生し、さらに走りの質に特化したモリゾウエディションにもつながった。

 自分もカローラにはお世話になった。TE71は多くのショップの手によってラリーカーに仕立てられ、例えばキャロッセやマジョルカ、ラックなどがそれである。自分のラリー車も当然TE71。シャレードの出番がないラリーにTE71のハンドルを握った。製作はレースの名人、鈴木哲夫さんが主宰するシフト。通称テッチャンの作るレーシングカーは魔法のように速く、その戦略もピカイチだった。そのラリー車もていねいに作られて走りやすかった。

 もう1つ、TE71購入にあたっての話。ラリーに使う購入希望者をまとめて、同じディーラーから5台くらい購入して安くしてもらった。買い手はクルマ購入経験が多数で、書類はすぐにそろう。ディーラーも面倒がなくお互いにウィンウィンだ。当然定価より随分安くしてもらった。

 それだけの需要があるほどラリーが盛んで街にラリー車がたくさん走っていたということだ。ベース車両が安かったしラリー車制作もコストはそれほどかからなかったのが盛んになった理由だ。

 さてGRカローラはシンプルに言えばGRヤリスのパワーユニット、パワートレーンをカローラスポーツに移植したものだが、ホイールベースがGRヤリスの2560mmから80mm長い2640mmとなり、トレッドもフロントで55mm広い1590㎜、リアも55mm広い1620mmとなっている。ボディはぐんと大きく感じられるが、モッコリした印象のあるGRヤリスよりのびのびとしている。ただ車両重量もGRヤリスの1280kgからGRカローラは1470kgで190kgほど重く、競技では不利な要素ばかり目立つ。S耐ではカローラの車体を使った水素エンジン車が実績を上げて着々と速さを身に付けているので長いコーナーなどの安定性が高いのだろう。合わせてボディ剛性もかなり高くなったと言われるのでGRヤリスのようなハンドルレスポンスも期待できそうだ。そしてGRカローラにはリアドアがあり後席もキチンと座れるので使い勝手は魅力だ。

すでに名機の貫禄すらある1.6リッター3気筒ターボ。GRヤリスからコンバートされてます

 一方、限定版のモリゾウエディションは過給圧を上げて370Nmから400Nmにトルクアップし、6速MTのギヤレシオもトルクに合わせた設定でギヤそのものも強化品。さすがメーカーで緻密に作られている。また後席と関連パーツを外して2シーターとしたことで約30kgの軽量化に成功している。軽量化は結構大変な作業だ。

モリゾウエディションのコックピット、光の関係で色が違うように見えますが気のせいです!

 その昔、1週間かけてアンダーコートを剥がし、軽量孔をあけても20kgの軽量化がやっとこさでがっかりしたことを思い出した。エアコンなんてない真夏の工場内での作業で大汗をかいた。思うに人間の方が軽量化に成功したのではないかと思う。あのころは痩せてたな。

 マットスティールのGRカローラ・モリゾウエディション。3本出しマフラー、大きなブリスターフェンダーで存在感が強烈。タダモノじゃない感が満点だ。

後席のあったところにはバーで荷物置き場が。グッドアイデア!
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。