日下部保雄の悠悠閑閑
AJAJの首都高トンネル防災点検勉強会
2022年6月20日 00:00
日本自動車ジャーナリスト協会では年に数回勉強会を開催している。今回は日頃お世話になっている首都高速道路公団の防災点検を見学させてもらった。
今回の見学はトンネル防災点検。目的地は首都高速5号線のエンドに近い新都心トンネルである。まず埼玉新都心線トンネル換気所でブリーフィングが行なわれた。埼玉アリーナのすぐ隣にある大きなビルだ。ここは事務棟とともにトンネル内の汚れた空気を巨大な換気扇に吸い上げた後、何重ものフィルターを通して外気に放出するための施設だ。首都高新都心線のトンネルはこの建物の地下を通っている。
この日の夜は年に1回行なわれる点検日で上り線は通行止めにしており、地下トンネルを自分の足で歩けるのだ。正直、それだけでもワクワクする。
普段はほとんど使われない長い階段を下りる。地下4階ぐらいまで降りただろうか、この階の非常口からトンネルに入る。明るい照明の中で40~50名ぐらいのスタッフが作業をしていた。新都心トンネルはそれほど長くないが、大和トンネルのような長いトンネルではかなりのチームが動くことになるという。通行止めにできるのは片側ずつで、上り・下りを分けて夜間に行なわれる。
首都高速は施設管制システムにより24時間体制で監視されているが、特に逃げ場が少ないトンネルはトンネル防災システムと呼ばれる特別な監視体制が組まれている。
トンネル内の路面はすでに水噴霧の試験が行なわれた後で濡れていた。火災が発生した場合は25m間隔で配置される赤外線センサーで管制センターに通報され、その判断で天井に配置されたスプリンクラーから50mの範囲ごとに水噴霧が行なわれる。
ちょうどスプリンクラーの点検作業も行なわれており、デュトロ(日野の小型トラック)に取り付けられたハシゴのカゴから作業員2名でひとつひとつ丁寧に点検されている。面白いのはデュトロからも4本のタイヤ付きのアシを出して高さを保っていたことだ。天井までの高さがあるので必要なメカニズムなのだろうか。別の独立した駆動系を持っているようだ。
火災で怖いのは煙。排煙の仕方はジェットファンで入り口方向から奥に流れるようになっており、先ほどの巨大な換気扇でCO2やPMなどをフィルターで除去して外気に放出される。つまり逃げる方に煙は流れにくい構造になっている。
さらに50mおきに泡消火栓があって、消防隊員やドライバーが自分で消火できるようになっている。ただし泡消火器は同時に設置してある携帯消火器とは違ってノズルに圧がかかるまで少し時間がかかる。
消火もガソリン火災の場合は水をかけると広がってしまうので泡消火が必要だし、今話題の電気自動車の電池火災はさらに厄介で、簡単には消えない。そのために管制センターからの判断で水噴霧の可否も行なわれる。しかし課題はあるものの、初期消火についてはかなり充実した体制が整っていると感じた。
ドライバーが行なえることはまだある。50mおきのSOSボタン、100mおきの管制室につながる非常電話であり、災害の情報をいち早く伝えることで被害を小さくできる。
そして今できることを行なったら、速やかにその場を離れなくてはならないが、クルマのキーを車内に残しておくことも重要で、動けなくなった車両が緊急車の妨げになるのはよく知られている。トンネル内で事故、ましてや火災となると落ち着いているつもりでも普段できることができなくなってしまう。トンネル内放送もあるので、一層落ち着いて迅速な行動が求められる。
さていよいよトンネルからの脱出だが、非常口は350m以内に設置されている。この非常ドアから一歩トンネルから離れると安全圏に入る。スライドドアは1分以内に自動的に閉まり、煙からも逃れられる。
普段使われることはない地上までの長い階段はカビ臭く、遺跡を上っている気分になるが、非常灯が付いているので心細さはない。最後、ワンウェイの出口の重量力式の扉は跳ね上げドアだった。基本的に外から開くことはできない。ただ、外に出ても自分がどこに出たのか分からない場合がほとんど。それを解消するために位置を知らせる方法(例えばQRコードなど)を検討中とのことだった。また、避難してから直帰してしまうと後処理に困ることが多々あるという。
普段何気なく走っている首都高速の進化に改めて感銘を受けた。さらに事故を知らせる視覚的な改良、音声による情報伝達など走りやすく安全な道路を模索している最中だ。
歩いてみるとそのスケールの大きさに圧倒された夜中の首都高でした。