日下部保雄の悠悠閑閑

初めての歌舞伎

内堀通りに面した国立劇場。いつもはクルマで通過するだけなので入ったのは初めて

 日本の代表的な伝統芸能、歌舞伎。実は観劇したことがない。ところが家内も同じ思いだったらしく、東京都の半額補助が付くチケットがあるのを見つけて申し込んでいた。抽選なので当選したらね、とほぼ忘れていたある日、2枚のチケットが送られてきた。当選しました!

 直前までグータラしていたので歌舞伎の予習はまったくしておらず、あたふたと出かけたのは国立劇場。内堀通りに面しているので時々かたわらを通っていたが、訪れるのは初めてだ。

場内は撮影禁止だったので掲示板を。「いざ、歌舞伎」。伝統芸能情報館は国立劇場の裏にあります。追憶の寄席も面白そう

 開演ギリギリ間に合ったと思ったら、すでに中村玉太郎さんによる歌舞伎の解説が始まっていた。そう歌舞伎の初歩と演目についての説明付きだった。歌舞伎役者独特の言い回しや声の張り、話術にも工夫があって聞きやすい。

 観客には見えないことになっている黒衣(くろご)。向かって右の高いところにある小部屋には三味線とナレーター役である義太夫。左側の小部屋には太鼓、笛、三味線、鈴などで自然現象や情景描写を音で表現するお囃子。そして歌舞伎ならではの役者が登場する花道の理由(役者と観客の距離を近づける)など、ホー、そうだったのかと知らないことばかりで、少しだけ歌舞伎の入口が見えた気がする。この解説があるなしでは理解度が俄然異なる。

 今日の舞台は彦山権現誓助剣(ひこさんごんげんちかいのすけだち)・毛谷村(けやむら)で、長~い長~い助太刀話の一話。2時間の演目になる。当然前後のストーリーもあり、全編は1日じゃ終わらないんじゃなかろうかと言うぐらい長い。解説書を読むと全11段の9段目にあたるという。

 幕が開くと早速舞台は始まった。主役の毛谷村六助を演じる中村又五郎(播磨屋)が墓参りをするところから始まり、杣衆とのやり取りなどがあって、やがて敵役の微塵弾正を演じる中村歌昇(播磨屋)が登場する。六助は剣の達人だがお人よし。なんだかんだと弾正に言いくるめられて領主の催す御前試合でわざと負けることになって仕官の道を譲る……。

 ストーリーは要所要所で義太夫の語りやお囃子の自然描写の中で進行していく。そうはいっても江戸時代を想定した話だから、義太夫の独特の節回しを聞き取れなかったりするのだが、そのために舞台の両袖には字幕スーパーがある。役者さんの演技を見たり字幕に目を走らせたりして自然にストーリーが頭に入る。

 予想と違ったのは分かりやすい物語と聞きやすいセリフ。敵討ちという深刻になりそうな話だが、コミカルな表現を織り交ぜながら現代劇を見ているようだ。

 弾正に暗殺された恩師の娘で許嫁のお園役の女形、片岡孝太郎(松嶋屋)が登場して一気に敵討ちの助太刀へと話が進み、いざ出陣というところで終了。アレ……と思ったが敵討ちは第10段、11段で演じられるのでまた来てね、ということだと思う。

 歌舞伎の様式美もありながら、敵討ちへ盛り上がっていくという分かりやすい内容で2時間が過ぎた。歌舞伎ビギナーはあらかじめストーリーや役者を知っておくともっと面白そうだが、初歌舞伎の2人でも十分に楽しめた。

 終演してからお堀に出て、雨上がりの夕景とお堀に映る東京を眺めながら感傷に浸ったのは少しの間。さて何を飲みに行こうかなっと。

雨上がりのお堀。水面に静かな東京が浮かんで心落ち着きます。内堀を巡る歩道は1周7kmのジョギングコースとしても有名で、何人も走っていました
ある日のムク,草むらでボーっとくつろいでいますが、相手をしているこちらも一緒にボーっとしていなければならないのがちょっとつらい
久しぶりのトバ。ヤサグレているのではなく落ち着いているのですよ。心優しいトバはヤンチャなムクの相手もしてくれます
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。