日下部保雄の悠悠閑閑
バラード スポーツ CR-X
2022年8月15日 00:00
今年がシビック50周年に当たるのは以前のコラムでご紹介したとおり。3代目のワンダーシビックと4代目のグランドシビック、そして5代目のスポーツシビックは最初からレーシングカーとして作ったのでナンバーが付くことはなかった。ただシリーズ中の派生車種だが、日常生活で縁があるクルマがあった。
3代目ワンダーシビックのシリーズは3ドアハッチバックと4ドアセダン、背の高いワゴンタイプのシャトル、そしてクーペのCR-X、という4車型があり、そのCR-Xに乗っていた。最初のバラード スポーツ CR-Xである。
バラードはホンダに3系列あった販売チャンネルのベルノ店での専売車で、ワンダーシビックがデビューする直前に先行販売された。言ってみればシリーズのパイロットモデル的な役割だった。
ホイールベースはハッチバックが2350mm(これでも短い)だった時代に2200mmとさらに短く、全高も1290mmと低くコンパクトなクーペだった。事実上の2シーターだが、リアに1マイル乗車ならOKというワンマイルシートが設定されていた。口のわるい連中は“犬も参る「ワンマイル」”と言っていた。でもこのおかげで手荷物を置けるスペースができ便利に使っていた。
エンジンはキャブ仕様1.3リッターとPGM-FI 1.5リッターのSOHC。後者では110PS/13.8kgfmの出力だったが、自分のCR-Xは1.5リッター。なんせボディはプラスチックの複合素材を前後バンパーやフロンフェンダー、ドア外板などに採用した軽量ボディで800kgしかなくライトウェイトスポーツらしい軽快さが魅力だった。軽いことは何物にも代えがたいのだ。
サスペンションはフロントはストラットだが、トーションバースプリングを使ってフロントノーズを下げ、リアも右側にスウェイベアリングを組み込んだコンパクトなラテラルロッドタイプという何ともホンダらしいレイアウトだった。
コンパクトでトルクのあるロングストロークエンジンを搭載したFFだが、軽量な車体とショートホイールベースはCR-Xならではのクイックな動きとフットワークのよさが楽しかった。ただしCR-Xは路面のいいところではゴーカートのように走ったが、粗い路面ではサスペンションのストローク量が不足しておりよく跳ね上げられた。でも実はそんなことも含めて楽しかったのだ。
全高も低かったのでヘッドクリアランスはそれほど取れていなかったが、シートが落としこまれていたことやルーフの内装材が少しえぐられていたので窮屈な思いはしなかった。
その代わりサンルーフは外に移動する(日本車では初めてだと思う)アウターサンルーフだった。
自分の乗っていたのは珍しいルーフベンチレーター仕様。流速の速いルーフエンドに開閉式のインレットがあり、ダクトで導かれたフレッシュエアが乗員の頭上から吹き出るという寸法だ。旅客機の客席上にあるベンチレーターと似ているが、車速に応じてすごい量のエアが流れ込んでくるので効果抜群だった。ルーフベンチレーターがラリー車に装着される前の時代のことだ。
ある晩、高速道路を使って帰宅を急いでいたとき、急激な眠気に襲われたことがあった。ボケる頭で「そうだ~」とベンチレーターを開けたところ冷気が一気に降り注ぎ、どんよりした空気が一新! 覚醒したのは言うまでもない。素晴らしいアイデアだったがすぐに消えてしまった。ゴミが詰まるなどのサービス性のわるさで販売店からは大ブーイングだったらしい。イケイケのホンダらしい話だ。
タイヤは横浜ゴムのASPECで175/70SR13を履いていた。スポーツコンフォートのコンセプトがCR-Xによくマッチしていたと記憶する。
北米での企業燃費規制に対して空力に優れた軽量ボディで挑戦する企画だったと聞いたことがあるが、これもホンダらしいチャレンジだった。夢いっぱいの時代だったな。