日下部保雄の悠悠閑閑

土管のゲストハウス

「土管のゲストハウス」とレンジローバー。不思議なほど溶け込んでます。そぎ落としたシンプルな美しさが共通しているのでしょうか。レンジローバーの右側のボックスが入り口になっています

 第5世代のレンジローバーはそぎ落とした美をデザインテーマにしている。事実、フロントマスクはレンジローバーのアイデンティティをそのまま継承しているが、サイドからリアに至るデザインは驚くほどのセンスでまとめられている。新レンジローバーのインプレッションは後日掲載するとして、ここで紹介するのは歓談の場として設けられた「土管のゲストハウス」だ。

 レンジローバーのコンセプトにも通じる装飾をそぎ落とした実験的な建築作品は軽井沢の林の中にひっそりと建てられていた。そこまでの曲がりくねった小径の砂利道は4WSのレンジローバーでは容易にたどり着けた。

長い白壁の上に唐突に置かれたチューブのような箱。リビングになっているようです。入り口側から見たところになります

 林の中に現れた建築物は白い外壁と大きなガラスで作られた不思議な建物だった。建築物への表現力が乏しく、うまく言い表す言葉が出てこないが、クルマを着けたところから白壁に沿って砂利道をグルリと回るとそこには大きな一枚ガラスをバックに新型レンジローバーが建物に溶け込むように展示されていた。その右側の入り口からスリッパに履き替えて建物の中心に入るが、適度な広さを持つ会場は庭と同じ細かい砂利が敷き詰められてサクサクと歩を進めると何とも開放的で心地いい。

 室内は柔らかい自然光によって落ち着いた空間になっており、床からは小ぶりな木とともにLED照明も顔をのぞかせる。外と内が一体になった不思議な空間だ。

「土管のゲストハウス」の中から見上げるとこんな景色が。木々を通して入る光が優しい。下側の黒い部分は影です。家の中に植栽がある

 両側の長い壁の裏側は大きなパイプのような廊下になっており、美術品の展示やプレゼン資料などの連続展示も面白いかもしれない。いずれにしても展示品との距離が近くて親しみが湧きそうだ。

 見上げると両サイドの廊下の上にもテラスがあり、イベント会場を俯瞰してみることもでき、さらに2階にはベッドルームやシャワールームもあり、居住スペースとしても活用できる。

 長方形のチューブ(つまり土管)を組み合わせたような実験的な建築物は今度どのように使われるか未定だが、今ならではの得難い体験ができた。

「土管のゲストハウス」にはめ込まれた大きな一枚ガラスから見たレンジローバーのリアビュー。多用途に使える貴重な空間になりそうです

「土管のゲストハウス」をデザインした佐藤オオキ氏はデザインオフィス「nendo」を主宰する日本を代表する著名なデザイナーだと知った。最近の代表作は東京2020の聖火台と言えばだれもが目にしたことがあるだろう。

 Webページによれば活躍の場は建築に限らず、シンプルで美しい多くのマテリアルデザインに関わっており、プロダクトだけではなく組織のデザインやフランス高速鉄道の次期TGV新型車両のデザインも手掛けているという。

 大変失礼ながら新型レンジローバーに出会うまで佐藤オオキ氏を知ることはなかったが、「土管のゲストハウス」の大きなガラス越しにレンジローバーのリアビューを眺めていると、氏が自動車のスケッチを描くとどんなデザインになるのだろうかと、とても強い関心が湧いた。次世代の自動車にふさわしいデザインにどんな夢を持つことができるだろう。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。