日下部保雄の悠悠閑閑

残念なことと、うれしいこと

フェアレディZ。残念ながら試乗会には行けなかったので、横浜の日産ギャラリーに飾られていたフェアレディZを上から撮りました。モニターが大きくて現実感がないですね

 残念ながら楽しみにしていたフェアレディZの試乗会はお休み。昨今、半導体不足やサプライチェーンの分断で各メーカー、クルマを作れない状態が続き、広報車の準備もままならず、次にハンドルを握れるのはいつの頃だろう。すでに納期未定のためにオーダーを中止しているとも聞いた。

 もう1つ残念なのは、きっと試乗会場にいたに違いない加藤博義さんの顔を見られなかったことだ。

 会えば必ず訛った口調で脅しにかかる。こちらもそれを待ち換えて応戦準備をする。真面目な話はほとんどないけど、言葉の合間に本音を聞こうとするその間合いが楽しい。たまにこちらがエンジニアに質問などをしていても、いつの間にかヒョコヒョコやってきてゴソゴソと不意打ちをかけてきて、そこでおしまい。いつもの戯言の応酬が楽しい。

今年の冬、氷上試乗会で会った日産の加藤博義さん(左)。経験豊富なテストドライバーの技能は日産の財産です

 クルマが好きで、Zが好きで、最初からテストドライバーになるつもりで日産に入社したというからその気合はなまじっかなものじゃない。それ以来テストドライバー一筋での会社員人生。厚労省管轄の「現代の名工」を受賞し、翌年には黄綬褒章も受勲したのだからすごい。

 テストドライバーはデータの突き合わせだけでなく、感性もとっても重要だと思う。その領域を国が評価してくれたのだからうれしい。タダモノではないのだが、失礼ながらボクにはヒョウキンなおじさんなのだ。ゴメン。

 今度、会えるのはいつだろう。新しいZのコトも聞きたい。ちゃんとした会話にならない予感がするけど。

 さてもう1つ、WRCの話。ヤリス・ラリー1が快進撃を続けている。ワークスチームはトヨタのほかにヒュンダイと、いつも予算不足に苦しんでいるフォードのMスポーツの3大チームだが、トヨタのチーム力が抜きんでているように見える。21歳のロバンペラ選手が7戦中5戦で優勝してトップを独走しているのも驚きだ。ラリーは経験も大きな要素と言われてきたが、世界を転戦するWRCでの年間開催回数が増えていることも経験値に影響があるのかもしれないなんてツラツラ思う。

 それにマニュファクチャラーではないけれども、4台目のヤリス・ラリー1に乗る勝田貴元選手が全戦でベスト10に入っているのも素晴らしい。ラリーはおおむね3日間で行なわれる長丁場で、必然的にコーナーの数は限りない。しかもラリーによっては路面も雪や氷からターマック、グラベル、マッドまで多種多様だ。高速でのワンミスは即コースアウト、リタイアにつながりかねないのに、あらゆる路面で対応して帰ってこられるだけでもすごいと思ってしまう。

 これまで運にも恵まれなかった高速グラベルの第7戦エストニアでも5位でフィニッシュして連続入賞回数を伸ばしてみせた。

モニターの中の勝田貴元選手。WRCの全戦でポイントを上げるなんて素晴らしすぎる

 また、興味深いのはサファリで体得したという姿勢制御の左足ブレーキ。サファリから時間がなかったエストニアでは、まだ発展途上でロバンペラ選手などとの違いがあると答えてくれたことだ。毎戦入賞という堅実な走りの中で、一瞬のブレーキの使い方を身に付けるのはきっとヒラメキなんだろう。次は1000湖、じゃなかったラリー・フィンランド。楽しみだなぁ。

WRCの次戦は地元(?)フィンランド!
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。