日下部保雄の悠悠閑閑
残念なことと、うれしいこと
2022年8月1日 00:00
残念ながら楽しみにしていたフェアレディZの試乗会はお休み。昨今、半導体不足やサプライチェーンの分断で各メーカー、クルマを作れない状態が続き、広報車の準備もままならず、次にハンドルを握れるのはいつの頃だろう。すでに納期未定のためにオーダーを中止しているとも聞いた。
もう1つ残念なのは、きっと試乗会場にいたに違いない加藤博義さんの顔を見られなかったことだ。
会えば必ず訛った口調で脅しにかかる。こちらもそれを待ち換えて応戦準備をする。真面目な話はほとんどないけど、言葉の合間に本音を聞こうとするその間合いが楽しい。たまにこちらがエンジニアに質問などをしていても、いつの間にかヒョコヒョコやってきてゴソゴソと不意打ちをかけてきて、そこでおしまい。いつもの戯言の応酬が楽しい。
クルマが好きで、Zが好きで、最初からテストドライバーになるつもりで日産に入社したというからその気合はなまじっかなものじゃない。それ以来テストドライバー一筋での会社員人生。厚労省管轄の「現代の名工」を受賞し、翌年には黄綬褒章も受勲したのだからすごい。
テストドライバーはデータの突き合わせだけでなく、感性もとっても重要だと思う。その領域を国が評価してくれたのだからうれしい。タダモノではないのだが、失礼ながらボクにはヒョウキンなおじさんなのだ。ゴメン。
今度、会えるのはいつだろう。新しいZのコトも聞きたい。ちゃんとした会話にならない予感がするけど。
さてもう1つ、WRCの話。ヤリス・ラリー1が快進撃を続けている。ワークスチームはトヨタのほかにヒュンダイと、いつも予算不足に苦しんでいるフォードのMスポーツの3大チームだが、トヨタのチーム力が抜きんでているように見える。21歳のロバンペラ選手が7戦中5戦で優勝してトップを独走しているのも驚きだ。ラリーは経験も大きな要素と言われてきたが、世界を転戦するWRCでの年間開催回数が増えていることも経験値に影響があるのかもしれないなんてツラツラ思う。
それにマニュファクチャラーではないけれども、4台目のヤリス・ラリー1に乗る勝田貴元選手が全戦でベスト10に入っているのも素晴らしい。ラリーはおおむね3日間で行なわれる長丁場で、必然的にコーナーの数は限りない。しかもラリーによっては路面も雪や氷からターマック、グラベル、マッドまで多種多様だ。高速でのワンミスは即コースアウト、リタイアにつながりかねないのに、あらゆる路面で対応して帰ってこられるだけでもすごいと思ってしまう。
これまで運にも恵まれなかった高速グラベルの第7戦エストニアでも5位でフィニッシュして連続入賞回数を伸ばしてみせた。
また、興味深いのはサファリで体得したという姿勢制御の左足ブレーキ。サファリから時間がなかったエストニアでは、まだ発展途上でロバンペラ選手などとの違いがあると答えてくれたことだ。毎戦入賞という堅実な走りの中で、一瞬のブレーキの使い方を身に付けるのはきっとヒラメキなんだろう。次は1000湖、じゃなかったラリー・フィンランド。楽しみだなぁ。