日下部保雄の悠悠閑閑

ブリヂストン イノベーション パークとブリザック VRX3

ブリヂストン イノベーション パーク。東京小平にあるブリヂストンの本丸。4月にオープンしたばかりの知の集積場

 東京都小平市にブリヂストンのR&Dがある。ここではOE(Original Equipment)タイヤ(=新車装着タイヤ)、リプレイスタイヤ、スタッドレスタイヤ、レーシングタイヤまで開発されている。かつてのF1もSUPER GTのレーシングタイヤもここ小平から搬送される。

 その小平が大きな変貌を遂げようとしている。すでにInnovation Galleryがオープンしており、誰でも見学できるスペースを設けていた。ブリヂストンの歴史やタイヤの作られ方の基礎的なことから現在のブリヂストンまで、ゴムを中心とした技術について多くの興味ある展示があって誰でも楽しめる。

 ギャラリーというだけでなく、これらの展示を見ることで、ここを訪れる多くのサプライヤーが共に次に向けて成長していくことも目指している。

ブリヂストン イノベーション パークの一部。B-Innovationが入る建屋で、ここにアイデアをすぐに形にする閃きの場があります

 Innovation Galleryの完成から数年が経過して、さらにイノベーションセンター「B-Innovation」とテストコース「B-Mobility」、これまで常に設備の更新を行なってきた技術センターを統合して、Bridgestone Innovation Parkとしてオープンすることになった。

 今回はブリヂストンのスタッドレスタイヤ、ブリザック VRX3のSUVへの適合を確認するために試乗会でその一部がお披露目された。

 B-InnovationとB-Mobilityはこれまでの東京工場を閉鎖してできた広大な敷地に作られ、R&Dの隣にあるメリットは大きい。開発スピードが上がるだけでなく、そこから生まれる知の蓄積は大きな財産になるに違いない。

 B-Innovationは訪れる多くの企業にも影響を与える。ブリヂストンの技術を間近に見てアイデアを出し合うスペース、アイデアをバーチャルで体感できる大型の湾曲したスクリーン、3Dプリンターやレーザーカッターでアイデアをすぐに実物で確認できるエリア、オープンとクローズドの両方の会議室を組み合わせたエリアなど、新しいアイデアが織り込まれて、見学しているだけでも楽しい。ゆったりした空間でライブラリやカフェテリアも備えており、隣接したR&Dと合わせて知の集積場としている。

B-Innovationにある湾曲した巨大ディスプレイ。大型車両装着タイヤなどのディテールなどを実際の大きさで検討できます

 もう1つのB-Mobilityはひと言で言うならばコンパクトなテストコースで、B-Innovationの隣に作られている。本格的なテストは那須塩原市(旧:黒磯市)にあるブリヂストンプルービンググラウンド(テストコース)で行なうとして、ここではB-Innovation、R&Dで完成したテストタイヤを素早く確認することを目的とする。周回路は1kmと短いことからも分かるように制限速度は40km/h、コーナーは20km/hと、遅い速度で確認できることに限られるが、完成したタイヤの“あたり”を見られるのは大きい。また、特殊路面は突起を常設するのではなくボルトオンで脱着可能として、テストの目的に応じてさまざまな路面をその都度設置することができるようにしている。

B-Mobilityは1周1kmのコンパクトなテストコース。R&Dの傍らにあるので、できたばかりの試作タイヤをすぐにテストできる
B-Mobilityの特殊路。乗り心地や衝撃音など路面突起をボルトオンで変更でき、要件にあった路面が作れます

 アイデア出しから試作、テストまで一連の流れがスピーディにできるのがInnovation Parkだ。今後増える、静かで重いというEVの特性に合わせたタイヤの開発にも威力を発揮するに違いない。

 ところで今回の目的はブリザック VRX3のSUVでの試乗だが、このB-Mobilityで乗り心地と基礎的な性能のテストを行なうことができた。車両は、プリウスとヤリスクロス、アウディ・Q5だ。タイヤサイズはプリウスが195/65R15、ヤリスクロスが205/65R16、Q5が235/55R19で、どれも既存サイズとなる。

 ゆっくりとしたレーンチェンジでは、接地面の広いスタッドレスタイヤの宿命で応答の遅れもあるものの、まず気にならないだろう。パターンノイズも抑えられ、この速度域では高周波音は出ていない。注目の特殊路では3種類の突起が用意されており、いずれも衝撃は小さく、段違いに置かれた突起では乗り下げのショックが少し強い程度で、タイヤ剛性の高さが確認できた。相性のよかったのはプリウスとともにQ5で、クルマの性格もあるが、もっと走っていたいという印象を持った。

アウディ・Q5でB-Mobilityの周回路を走る。ここでは周囲の環境に配慮して、直線路は40km/hまでに制限され、スキール音は出せません。旋回路は20km/hまでに規制されます

 氷上性能は西東京市にあるダイドードリンコアイスアリーナ、つまり室内スケートリンク場で確認した。ここでは20km/hから制動と8の字円旋回。氷温は0℃以下に保たれていた。

アイス性能を試したダイドードリンコアイスアリーナ

 基準車であるFFのプリウスは相変わらず高いグリップで、ひと昔では考えられないほどの旋回力を発揮し、ヤリスクロスはサスペンションが固めで氷は不利かと思ったが、舵角が大きくなってもよく踏ん張っている。メーターディスプレイの前後駆動力配分を見る余裕があり、後輪も積極的に駆動していることが確認できた。さらに重量のあるQ5では接地幅のある大きなタイヤがスクエアに氷をとらえて旋回力はさらに高い。Q5は駆動力を上手に前後輪に配分しており、リアが動きやすいが、向きが変わりやすいので最も運転しやすかった。思わぬところで自動車メーカーの性格が表われた。

ヤリスクロスでもテストしました。円旋回のタイヤの跡が見える

 いずれにしても、ブリヂストンの基幹技術である進化した発泡ゴムの威力は大きく、細かいパターンと接地面を広げたブリザック VRX3の実力が高いこと、そして背の高いSUVでもハンドリングに大きな影響を及ぼさないことが分かった。

 ブリザック VRX3はタウンユースの多い中軽量なクラスのSUV向けで、ヘビーデューティなクロカンタイプには従来通りブリザック DM-V3で対応する。基本的にはサイズがダブらないようになっているが、深雪など積雪地帯に向けてはブリザック DM-V3が向いているとされる。

 今回拡大されたVRX3のサイズはクラウン クロスオーバーも含めたSUVに多い12サイズで、大径タイヤサイズが増えていることも特徴だ。ラインアップに抜かりはない。

BLIZZAKの看板をバックにVRX3をパチリ
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。