日下部保雄の悠悠閑閑

スノーソックス

左からイッセ・スノーソックス日本エージェント ピー・エム・シーのファビアン・ドゥバケールさん、日本総代理店のフォーサイト顧問の建晴久さん、イッセ CEOのジョルディ・アギレラさん、イッセ 輸出部長のアーサー・シュワルツマンさん

 日本ではまだなじみの薄いスノー商品で、欧州では一般的に使われているものに布チェーンがある。以前、オートソックという布チェーンで圧雪を走ってみたがなかなか快適だった。

 何しろ装着が簡単。チェーンなんて何年も巻いてなかった自分にも簡単に巻けた。

 考えてみれば布は大きな吸水効果があり、スタッドレスタイヤの原理と同じで氷とタイヤの間に生じる水を吸って吐き出すことでグリップする。

 布は破けやすいのではないかという耐久性に関する不安が頭をよぎるが、オートソックも緊急時の使用範囲では問題はなかった。

 今回はスペインの製品であるスノーソックスという布チェーンで、このマーケットではヨーロッパ最大手、イッセ社の製品だ。

パンツの展示じゃありません。左から、見切れているのがトラック用、耐久力の高いスーパー、標準型のクラシック。一番右はBMWの純正アクセサリーのスノーソックス

 布チェーンは金属チェーンと同じく緊急時に履くもので、ドライの高速道路でも走れるスタッドレスのような日常性はないが、夏タイヤのままスノーシーズンを迎えた時にトランクに入れておくといざというときに頼もしい味方になる。

 そして何よりも便利なのは装着が容易なことだ。金属チェーンは慣れていないと絡んでしまい装着に悪戦苦闘するが、スノーソックスは実演しているところを見ても簡単に巻けている。スノーソックスを駆動輪にかぶせてクルマを少し動かせば、スノーソックスの方からタイヤに巻き付いてくれ、ジャッキアップも特殊なコツも必要ないという。

 では、と自分でもやってみようと駐車場で装着をしてみた。最初は要領が分からず戸惑ったが、アドバイスをもらい、スノーソックスをタイヤに上から深くかぶせてから、少し前進してまだ巻けてない部分を上にして再びかぶせて最後の仕上げをする。金属チェーンのようにテンションを張るゴムバンドもない。きれいな形で巻けなくても走り出せば自動的に最適状態になるという。慣れると3分ほどで装着完了というから頼もしい。

駐車場で装着体験。5分もあれば簡単に装着できます

 タイヤとホイールハウスの間隔の狭いクルマでも薄くて柔軟性のあるスノーソックスは装着が容易だし、遠心力で布チェーンがホイールと干渉するリスクも少なそうだ。

 あくまでもチェーンなので他の金属チェーンと同じように40km/hという速度制限があるが、頑丈なポリエステルを織り込んで製作されているので耐久性は高いという。加速、制動試験では金属チェーンと同等の性能が確保されており、欧州、米国、日本のチェーン規格に認定されている。

 耐久性の目安は金属チェーンでは切れてしまうと修復が厄介。走行を中止しなければならないが、スノーソックスでは穴が開き始めてシーズン中に穴が数か所に達したところが寿命の目安だという。頻繁に使われる欧州では2年ほどで交換する人が多いというが、使用条件が緊急時と考えると、布は錆びることもないのでもっと伸びそうだ。

 オートソックの経験ではプラスチックや金属チェーンのように凹凸がないので、乗り心地がよく、つい速度が上がりがちになるので自制が必要だった。

 タイヤのパターンを隠してしまうことから雪はどうか、という疑問にはタイヤに巻かれた布と雪との接触面が広がることから、吸水力によるグリップが勝り、深雪もカバーするという。金属チェーンと同様の緊急脱出用として認められていることからその実力は高そうだ。

 布の耐久性に自信を持っているのはイッセ社がもともと繊維メーカーをルーツに持ち、そのノウハウが布チェーンにも応用されているから。

 また最近では米国での大型トラックに適合するサイズも発売しており、実力が高く評価されて公的機関でも採用が進み、日本でも一部地域の道路公団で試験使用が始まっている。タフさの象徴でもある大型トラックでも使われていると聞くと俄然、信頼性が上がる。

 面白いのは乗用車用は6サイズで軽自動車から大型SUVまでほとんどの車形をカバーできること。これならクルマを乗り替えても使えるケースも多そうだ。さすがに専門性の高い大型車用は14サイズと種類も多くなる。

 また乗用車用は標準モデルのクラシックは赤い染料が使われた繊維で華やかで、もう1つの繊維の織り方が異なり耐久性の高いスーパーは白で統一されている。1セット1600gほどで軽くてコンパクト、緊急用にトランクに入れておけば安心だ。クラシックで1万2000円前後、スーパーで1万8000円前後と、標準的な金属チェーンよりは高いが、利便性と誰でも扱いやすいと考えると妥当な価格ではないだろうか。ほとんど雪が降らない都市部のドライバーにも勧められる。

 日本ではまだ認知度が低いが、手軽さから今後広がりそうだ。

実際にスーパーをタイヤにかぶせているところ
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。