日下部保雄の悠悠閑閑
スーパー耐久最終戦のMazda3
2022年12月5日 00:00
今年もいろいろな話題を提供してくれたスーパー耐久、各クラスのトップ争いもS耐らしく激しかったが、注目を集めたのは各メーカーが開発車両を持ち込むST-Qクラスだった。モリゾウ選手の乗る水素カローラはすでにおなじみだが、今年はカーボンニュートラル燃料(CNF)を使うスバルBRZ、GRヤリスのエンジンをモディファイした1.4リッターターボをCNFで走らせるトヨタGR86、バイオディーゼル燃料を使うMazda2と多彩だ。
これらレース車は将来の技術をレースという場で短期間に実現するための実験車で、終わりのない改善が図られている。
最終戦でもST-Q車両は新しいタマを込められじわじわと進化し続けているが、外観でも目立つ変化を遂げたのはマツダだ。これまでのMazda2からひとまわり大きいMazda3になり、エンジンもMazda3の市販車にはない2.2リッターのSKYACTIV-Dを搭載する。
Mazda2は1.5リッターターボディーゼルを積んだ世界でも貴重なコンパクトディーゼルだが、富士24時間からエンジンルームには1.8リッターディーゼルターボが搭載されるようになった。これも市販車にはないラインアップだが、モアパワーを望むチームの要望で2.2リッターのターボディーゼルが浮かび上がった。
しかしさすがにMazda2のボンネットに収めるにはパワートレーンが大き過ぎる。必然的にボディもMazda3に変更されることになった。つまりマルっと変わることになったのだ。
実際にはMazda3の投入は早い時期に考えられていたが、決定は1年前ぐらい前。実際には今年の2月に開発が始まった。
日本ではまれだが、世界ではディーゼルレーシングカーの活躍は珍しくない。かつてのWECではアウディやプジョーのWECマシンが、WTCCではセアトが職人たちの技で大活躍した。大きなトルクは瞬発力があり、コーナーの立ち上がりではマージンを持っていたと記憶する。
Mazda2からMazda3になって車体に余裕ができたことで、大きく重くなったエンジンを搭載しても燃料タンクのレイアウトに余力が生まれ、前後重量配分もMazda2時代と変わらないところまで詰められた。
軽量化素材にはルーフとボンネットに天然素材由来のカーボンが採用されていたが、将来の市販化に向けての文脈もあると思われる。
エンジン出力は量産エンジンから2~3割ほどアップされて、Mazda6の2.2リッターSKYACTIV-Dを基準とすると少なくとも230PS以上は出ている勘定だ。ただしトルクはパワートレーンとのバランスを見てややセーブされている。
出力アップには加給圧もあるがターボの変更が大きく、これまでに2ステージからシンプルで軽量な大径シングルターボになっている。
燃料はバイオ燃料。ひと昔前のバイオ燃料はパワーも出なかったが、技術進化で今では通常の燃料と遜色ないほどの熱量を持つという。マツダが当初から使用しているミドリムシ由来のユーグレナもほぼ軽油と同等の出力を出すと言われる。
合成燃料は燃えやすいのが特徴でそれだけにエンジンの摩耗が少し早くなるが、添加剤の配合次第で使いやすい燃料になり、S耐では十分なパフォーマンスを持っているという評価だった。試しに匂いを嗅がせてもらったが軽油を薄くしたような匂いだった。
エンジンは1.5リッターからスタートして富士24時間で1.8リッターに、そして鈴鹿で2.2リッターになったが徐々に検証しながらステップアップしていくのがマツダのやり方。
レースでは心配されたトランスミッションのトラブルが発生したが、近い将来に水素カローラの32号車 モリゾウ VS 55号車のMazda3 前田育男役員の対決が見られるかもしれない。