日下部保雄の悠悠閑閑

冬季屋内試験場

横浜ゴムの旭川にあるTTCHに新たに建設された屋内氷盤旋回試験場。スマホのフレームには収まりません

 タイヤメーカーの研究施設にはウェット円旋回の試験場が備えられている。20Rや30R、40Rなどの半径で横方向のウェットのグリップを見るためのものだ。タイヤのコンパウンドや溝の切り方によって限界速度が決まり、ラップタイムの平均で評価していることが多い。習熟したパネラーになるとコンマ1秒単位で正確に刻むことができる。

 これらの円旋回試験場は屋外に設けられており、水膜もスプリンクラーでコントロールすることができるが次第に磨かれてくるので、定期的に舗装を張り直してデータを安定させている。

 ここまでは夏タイヤの円旋回試験の話。スタッドレスタイヤも同様に冬季試験場で円旋回試験が行なわれている。ただし屋外にコースがある場合はその保守管理が大変だ。気温の影響で時間ごとに路面が変化し、雪が降れば摩擦係数が変わり試験はできない。

 何とも管理しにくいのが屋外の氷盤円旋回試験場なのです。今はあまり使われていないかも。

 屋内に設ければと思うのだが、屋内旋回試験はかなりの面積が必要。建物も大きくなり簡単ではないようだ。

 今年の2月7日にお披露目になったのは、北海道旭川にある横浜ゴムの冬季テストコースであるTire Test Center of Hokkaido(TTCH)内に新たに建設された国内最大の屋内旋回試験場だ。56×55mという大きなサイズで、中に15Rと20Rの円が二重に描かれて、試験によっていずれかを選べるようになっている。

15Rの旋回路を走る試験車。これまでなかなかできなかった円旋回試験も多くの仕様を一気にテストできます

 旋回試験場の氷温は外部の気温に左右されるが、もともと寒冷の地で扉の開閉や屋内の暖房装置によってほぼ希望の氷温にコントロールすることができる。

 屋外から見ても高さは12.3mもある大きな建屋だが、室内に入るとその氷盤の大きさに圧倒される。氷盤面積は1960m 2 と中央の柱の向こう側を走るクルマがかなり小さく見える。

 この設備の完成によって天候に関わらず氷盤円旋回の試験精度が飛躍的に上がり、スタッドレスユーザーの求めるアイスバーンでの「止まる」に続いて「曲がる」というデータが効率よく蓄積できるようになり、次期スタッドレスタイヤの開発に活かされるという。

 横浜ゴムの冬季屋内試験場では2018年に制動試験を行なうテストコースが完成し、さらに2020年には一部制動レーンの下にスケートリンクのような冷媒を入れることで氷温を-10℃まで下げられ、外気温度に関係なくデータを取れるようになった。

2018年に完成した屋内制動試験。正面の奥で56×55mの旋回試験場ともつながります。左側が冷媒の入ったレーンで、温度コントロールが可能

 昨年テストさせてもらった経験では同じタイヤでは氷温が下がるほどグリップは高くなり、0℃に近づくと次第に氷の表面に水膜ができ制動距離が伸びた。氷温の違う2つのレーンを同時に使えることで制動距離の違いをすぐに体感できたのが新鮮だった。

 それにしても北海道は寒いです。朝は-10℃まで下がることも珍しくなく、風が吹こうものなら体感温度はさらに下がって体の中から冷えていく。以前、旭川でも珍しい-25℃の中でダイヤモンドダストを見ることができたが、美しいよりただただ寒かった。

旭川の朝、-14℃でしんしんと冷えます
完全武装しても体の芯から冷える

 また、歩くにしても雪と氷は滑りやすく、気を付けないとスッテンコロリンである。なぜ北海道の人は走れるんだろう? それに見た目は薄着だし……。不思議です。

突然の降雪がやんだ後に出た不思議な丸い虹。カメラマンによるとたまに見られるとのこと
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。