日下部保雄の悠悠閑閑

2023年のオートモビルカウンシル

毎年の開催、頭が下がります

 クルマの文化を伝えるオートショーがオートモビルカウンシル。今年も幕張メッセで3日間開催されて多くの人を楽しませてくれた。

 私もその1人。今年からAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員は会員証がパス替わりになるという特典を与えてくれたので大助かり。

 会場は幕張メッセの9ホールで例年通りコンパクトにまとまっているので、1か所をじっくり見ることができる。

 マツダもオートモビルカウンシルの趣旨に共感して例年ブースを出しており、今年はロータリーエンジンをテーマにした展示だった。ロータリーエンジンは自動車用としては唯一マツダが量産化に成功したことはよく知られている。コンパクトで振動がなく高出力なのは、RX-7に代表されるスポーツカーにはもってこいだ。ただ高出力はそれなりに燃料をくい、構造上も燃費の改善などのハードルが高く、残念ながら今ではロータリーの量産車はない。

マツダ MX81。大ヒットしたFFファミリアをベースに、おしゃれな2ドアクーペをデザインしたのはベルトーネ。1981年製です

 ボクの印象ではロータリーはレスポンスに難があり、重いフライホイールのためか特に回転落ちがわるくてラリーでは使いにくかった。しかしロータリー専門のチューナーの手にかかると夢のようにシャープなエンジンに変貌したのだ。

 マツダ車のスペシャリスト、ナイトスポーツに縁があったのでロータリーにはいろいろ面白い経験をさせてもらった。床に落ちたボールペンが溶けたとか、いつも左足首は低温やけどに悩まされたとか、熱にまつわる笑い話みたいなものが多かったけれど、今となっては自分の財産だ。

 そのロータリーが今年帰ってくる。MX-30 e-SKYACTIV R-EVのシリーズ式PHEV用のエンジンとして新開発されたロータリーエンジンだ。欧州から始まり、年内に日本でも発売予定だ。

MX-30 e-SKYACTIV R-EVの模型。ロータリーが最後部で回っています

 このロータリーは発電用に特化したエンジンで、従来の654ccの13B系とは異なる8C型と呼ばれ、約800ccの排気量を持っている。レシプロエンジンで言えばロングストローク化して燃焼時間を長くとっている。何でも燃やすことができるロータリーの特色でカーボンニュートラル燃料にも容易に対応できるのも大きい。

 バッテリは17.8kWhのリチウムイオンバッテリでそれ自体の航続距離は約85km、その後はロータリーエンジンの発電によってモーター駆動が続く。50Lの燃料タンクを持つので利便性は高そうだ。新しいロータリーエンジンの門出を祝福したい。

 ホンダは4輪創世記の4輪軽トラック、T360や幻に終わったS360を出展し、ホンダの文化的ルーツをさかのぼっている。トラックに小排気量4気筒のDOHCエンジンをミッドシップに積んだT360はスポーツトラックとして一部で人気になったが、低回転高トルク、しかも高いメンテナンス性や耐久性を求める軽商用車には向かないスペックだ。でも挑戦する姿勢がホンダ。販売台数以上にホンダをリスペクトする少年達が育ち、やがてN360の大ヒットにつながった。やはり記念すべき第1号なのです。

ホンダが4輪に進出した切り込み隊の一番手は軽トラのT360。OHVが当たり前だった時代に360ccのDOHC4気筒を車体中央に搭載するという思ってもみなかった軽トラックを作り上げた。ホンダらしいです。なんと右コラムシフトでした

 オートモビルカウンシルには内外の多くのヘリテージカーが展示され、冒頭にも記したように眺めているだけで飽きない。少年だった頃、CAR GRAPHICで見ていた憧れのクルマ、それがフェラーリやポルシェだけでなく、今ではなくなってしまった小さなコーチビルダーが作った珠玉のようなクルマを発見するのもこのイベントの楽しみだ。初めて見る若者だってきっと琴線に響くものがあるに違いない。自動車が好きならぜひ訪れてほしい。

新旧のルマン・ウィナー。右はもちろんトヨタTS050 HYBRID、左はベントレー 4 1/2
ヨコハマゴムブース。サイズは限定されるものの、古いクルマにも履けるタイヤを現在の技術で復刻してます

 クルマだけでなく、軽妙な解説付きのレコードコンサートもクルマを眺めるのに集中していた神経を休めるにはちょうどいい。例年趣向を凝らしたイベントを開いてくれるのもオートモビルカウンシルの特徴の1つだ。

 さてもう1つ楽しみなのはミニカー。年によってばらつきはあるが、今年手に入れたのはランチアデルタ・HFインテグラーレ 16V。1989年のラリーサンレモとある。クルーはミキ・ビアジオン/ティツィアーノ・シヴィエロ。その気になればネット検索で購入することはできるだろうが、ミニカーも出会いが楽しみ。直観的にビビビ、と来たものに吸い寄せられる。赤いマルティニカラーも魅力的だし、フロントホイールに取り付けられた大きなブレーキ冷却用のホイールカバーに引きつけられた。どう見ても突起物にしか見えないが、ランチアの智将、フィオリオはどんな理屈をつけて認めさせたんだろう。そんな丁々発止を想像してみるのも楽しい。ちなみにこの年、1号車は問題なく優勝してます。

デルタ・HF インテグラーレ 16V。マッシモ・“ミキ”・ビアジオンのドライブで1989年のサンレモラリー。ターマック用のブレーキ冷却フィン付きホイールカバーがしびれました
ベランダのムクさん。何やってるの?
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。