日下部保雄の悠悠閑閑
ベレットとセリカ
2023年5月29日 00:00
古いクルマはメンテナンスが大変だが、腕利きの職人がついていれば安心して乗っていられる。古いレーシングカーもしかり。おなじみの日下総一郎さんが持っているレーシング・ベレット GTRも倉敷の名人の手によるものだ。
実はベレット、しばらくごぶさただったのは、2年前の岡山国際で大クラッシュしてその修復に時間を要したとからだ。半分もう修復不可能じゃないかと思っていたが、2年ぶりに職人の手で見事に生まれ変わった。強烈なネガティブキャンバー、ブルーのボディ、Tras Amのような黒いヘッドライトカバーもそのままで、変わったと言えばステアリングホイールが新しくなったぐらい。3速と4速が並んでいる変則シフトもそのままだ。オーナーの日下さんの言葉では、前以上に調子がいいと言う。実はボディも入れ替わっているので、剛性が高くなりカッチリしているらしい。ハンドルを握るのが楽しみ。ベレットが復活する岡山国際にウキウキして向かった。
もう1つ楽しみなのは、いろんな古いクルマ、それも本気の旧車レーシングカーを見る機会なんてそうそうあるものではない。昔、雑誌で見ていたレーシングカーを間近に見られるのだ。
早朝の車検に始まって1時間耐久は抽選! なので、あとは本番まですることはない。隣のピットを見に行ったり、スプリントレースを眺めたりして時間を過ごす。岡山のコースは観客と近いところがいい。よくぞここでF1が走ったと感心する。セナが最後に日本で走ったのも岡山国際だったなぁ~。
1時間レースの前に8周のスプリントレースを終えた日下さんがポツリと「ブレーキが深い」と不吉なことを言う。
地面を見ると、オイルが垂れているではないか! ブレーキパイプからのオイル漏れ。大事にならなくてよかった。それでも4位でレースを帰ってきた日下さんもすごい。しかし本番までパーツも時間がなく修復は諦めた。
帰りの飛行機の算段を始めたところで、リタイア届けを出しに行った日下さんの長男、恭一郎君がピットに帰ってきた。あれ、なんか嬉しそう。同じピットにあるセリカで旧友の三好正巳さんと恭一郎君、そして自分の3人で出走することになった、と、こともなげに言う。え、もう15分もないんですけど……。
セリカ、どんなクルマだっけ? 前に乗せてもらったことあるけど……ぼやぼやしているうちに、セリカはすぐにグリッドに着いた。ルマン式スタートである。恭一郎君がコースサイドから走り、セリカにタッチする。三好さんがすぐに動き出す。ダブルヘアピンに入る前に後続を引き離してトップに立っていた。
次は自分、準備をしなくちゃと思っていたら、5周もしないうちにピットインしてきた。まだヘルメットもかぶっていないし、グローブも……泡を食ってドライバー交代。「あれエンジンどうやってかけるんだっけ?」探したらセンタートンネルのドライバー横にありました。ピットロードの速度制限は40km/h、ピット出口まではとっても長く感じられる。
日下君同様、スプリントでセリカに乗った三好さんから言われていたハンドルの遊びの大きさは気になるが、ひどくなったら戻ってこいと言われてのスタートだ。しかし2TGは快調。2周したところで「そろそろ……」と思った矢先、大きな音とともにセリカは白煙に包まれてコースサイドに止まった。自分自身、人生3度目のエンジンブローである。
今日はめったにトラブルなんてない盤石のマシンたちにとって、運としか言いようのない厄日だったに違いない。「レースにはこんな日もある」って言い聞かせてきたが、やはりガックリ疲れた岡山2ラップの特急旅行でした。