日下部保雄の悠悠閑閑

今年も楽しみなラリージャパン

JN2のGRヤリス。クルマはYUHO RALLY TANGOでのKYBラリーチームのGRヤリス

 WRCの最終戦となるラリージャパン。今年は11月16日~19日に開催されるが、その4か月前になる7月24日にラリージャパンの概略とWRCについてのプレスカンファレンスが開催された。元スバル広報の岡田さんがラリージャパンの広報の任に就いており、うれしいことにAJAJにも勉強会として声をかけてくれた。

 WRCもRACラリー詣でをしていたころとは違って、車両もラリーも大きく変わってしまったので最新のWRCをレクチャーしてもらった。

 WRCは年間13戦で行なわれ、モンテカルロから始まってラリージャパンでシーズンを終えるのがところの通例。来年は1戦増えるという話もあるので、ラリーのない12月を除くと11か月間のシーズンになり、月によっては2回開催されるというチームにとっては忙しいスケジュールになり、マニュファクチャラーのような大規模チームでないととてもWRCは追えない。

 ラリーもシステマチックになっており、ラリーウィークを分解すると月曜はプライベートテスト、火曜、水曜はレッキ、木曜はシェイクダウンとセレモニアルスタートがあり、ラリーによってはスーパーSSが行なわれる。スーパーSSは観客が見やすいスタジアムなどで行なわれる場合が多く、今年のラリージャパンもサッカーなどが行なわれる豊田スタジアムに設定される。想像どおり距離は約1kmと短い。

 本格的な勝負はDAY2の金曜、DAY3の土曜になる。ほとんどのラリーはスタート地点に帰ってくるので、ラリーの開催地域としてはコンパクトだ。つまりコストも低減できることになる。僅差の勝負が続くWRCではDAY4の日曜まで続くことも多く、ここではポイントが倍になるパワーステージもある。スーパーSSがこれを兼ねることも多い。

 リエゾンによってラリーの総距離は異なるものの、おおむね950km以上、SS距離は300~350kmで20~22か所のSSが設定される。昨年のラリージャパンでは特例としてSS距離は300km以下、SSは19か所というのが認められた。

 ちなみに全日本ラリー選手権(JRC)は年間8戦、SS距離は50~100kmだからWRCの規模の大きさが分かる。

 一方、ラリーカーはメーカーチームが戦うWRC1は今年はトヨタとヒョンデとフォードが参加しており、車体は市販車とは関係なく作られたWRC専用車。36φのリストラクターを付けられたエンジンは専用の1.6リッターターボ(ブースト圧1.5Bar)に、FIAから指定されているコンパクトダイナミック社のハイブリッドユニットを使うことが義務付けられる。バッテリは3.9kWhでシステムとしてはモータージェネレーターでリアデフを駆動する。出力はそれほど多くないが、使い方次第でSSでのタイムアップになる。

 また、起点となるパルクフェルメのある市街地ではEV走行が義務付けられる。回生技術は規定がないので各メーカーの知恵の見せどころとなっている。

 使われる燃料はサステナブルな合成燃料(P1レーシングフューエル)が使われ、これもFIA指定となる。通常のガソリンとの違いはほとんどなく、エンジン側の変更はほとんどな必要なかったという。

 さらにタイヤはワンメイクで、現在はピレリがサプライヤーとなり、使えるタイヤはトータル28本/ラリー。その選択に頭を悩ませる。ちなみにラリー2は26本以下となる。

 WRC2は日本で選手権を争っているJN1で走るR5に匹敵する。多くのプライベートチームやセミワークスがWRCに参戦しており、シュコダやシトロエン、そして現在開発中のヤリスラリー2もこのカテゴリーになり、WRC1と違い市販車であることが義務付けられている。ラリー2のエンジンは1.6リッターターボでリストラクターにより出力を絞られて280PSほどとなり、駆動は4WD。

シトロエンC3、国内ではJN1でラリー用仮ナンバーを装着している。WRCではラリー2に該当する

 ラリー3になるとNAでは1390cc~2000cc、ターボでは927cc~1033ccで、駆動は4WD。ラリー4はその2WDとなる。いずれも日本ではなじみがないクラス分けで、GRヤリスが活躍するJN2に該当するクラスはない。ラリージャパンではFIAの安全基準を満たしたローカルルールのクラスで出走はできるようだ。

新井大樹選手のプジョー・208のラリー4。2輪駆動のFFだが、元気いっぱいの走りが光る。国内ではJN1に属するがWRCではラリー4に該当する

 現在、GAZOOの育成ドライバーとして欧州に渡っている3人の若者は、2WDのラリー5で腕を磨く。車両はR5で戦闘力がありパーツもそろっているルノー・クリオを使用している。

 さて、ラリーのオーガナイズはレースと違って開催する場所が広く、管理にはレースとは比較にならないほどのオフィシャルが必要だ。ラリージャパンでは1000人以上のボランティアの力を借りる大事業になり、その労力は計り知れない。さらにラリーは自然を相手に公道を使うだけに、今年のラリージャパンでは予定していた林道が破壊されてしまい、新たなコースの開拓を迫られるなど苦労が絶えない。

 サステナブルは世界的な流れとなっており、豊田スタジアムの電源は100%グリーン電力が使われる。マーシャルのタバートもプラスチック素材を配している。

 ラリーは多くのコースで公道を利用するので自治体の協力が不可避となり、ラリージャパンでは愛知の豊田市や岐阜の恵那市など多くの自治体の協力とボランティア、そしてラリーに理解のあるスポンサーなくしては成立しない。

 11月第3週の週末、16日~19日はラリーファン必見だ。豊田スタジアムのチケットは子供料金を1500円に設定するなど、親子で楽しめる内容にしようと主催者側も配慮している。ラリージャパンのWebサイトにSSなどの情報が順次掲載される予定なので、観戦する人も、残念ながら行けない人も、WRCを楽しんでください!

ムクさんは地上高が低いので夏の路面の照り返しがつらいらしく、散歩に出てもスタコラサッサと帰ってきます
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。