日下部保雄の悠悠閑閑
カヤバの系譜とカヤバの仕事
2023年10月2日 00:00
国内油圧機器の大手、カヤバの開発センターは岐阜県可児市にある。技術の中枢であるとともに国内部品メーカー屈指のテストコースも併設する。ゴルフコース9ホール分の大きな施設だが、テストコースはいかにもショックアブソーバーメーカーらしい路面で、効率よく各種試験ができるように設計されている。
このコースを使ったおもしろい製品説明会がAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)向けに行なわれた。得難い体験をできたが、それは本稿で紹介するとして、岐阜で拾ったこぼれ話をしていこう。
発明家、萱場資郎が1919年に21歳で創設した萱場発明研究所は、当時欧州より20年は遅れていたとされる油圧技術を一気に引き上げた。その後1927年に萱場製作所で本格的油圧機器メーカーとなった。航空機用(もちろん軍用機)ショックアブソーバーや、軍艦から水上機を飛ばすカタパルトも製造していたことからも技術の高さがうかがえる。
戦争中には、オートジャイロも開発している。お手本は欧州にあったが、ヘリコプターのような大きなプロペラを頭上で回して揚力を得て、飛行機のような推進力を得るという、ヘリコプターの前身のような飛行体だ。
もっともエンジンの国産化が進まず、実戦投入されるころには当初想定されていたような砲兵部隊の弾着観測機としての出番はなく、対潜攻哨戒機として方向転換されるという不運の機体だった。大戦末期に敵戦闘機がばっこする中で低速のカ号観測機(回転翼のカ)はほとんど活躍する場がなかったが、萱場製作所への軍の信頼を物語る。
当時膨大な数の軍用機機のほとんどのショックアブソーバーは萱場製だったが、戦後数十年を経て相模湾(だったかな?)の海底から引き揚げられたゼロ戦があった。その機体から取り出されたショックアブソーバーはスーと伸びてピカピカのロッドが現れ精度の高さを実証したという。
時代は下って平和の象徴、パラリンピックでのチェアスキーも興味深い。伸び圧別調整の短いショックアブソーバーが使われていたことにも驚いたが、2024年シーズンにはフレームメーカーのものをカヤバが適合させた軽量低重心、高剛性のボディを持つチェアスキーが投入される。各国がその開発にしのぎを削っている中でのカヤバらしいチャレンジだ。
またこちらも全くの素人だったがe-bike、尊敬する片山右京さんも協力する電動自転車のフロントにオートバイのような2本スポークが使われていた。ここにも2輪で培われた技術が応用され、ショックアブソーバーにはカヤバオリジナルブレンドの作動油を使うことで、全く別次元の乗りものになったという。この効果は4輪でも実証済。内緒だけど。
まだまだある。最近力を入れているキャンピングカー。大型ではメルセデスのハイマーを利用し、独立して4輪を動かすことができる車高調整式タイプや、ダイナの改造型で駐車時にルーフとボディサイドが伸びるタイプなんかも開発中で「おもしろいことやろう」精神があふれ出ている。
なじみのモータースポーツではレース、ラリーを問わずショックアブソーバーは当然としても、電動パワーステアリング(EPS)はWEC、SUPER GTをはじめ世界のレースシーンで大活躍している。ル・マンでトヨタの連勝を阻んだフェラーリに搭載されていたのもカヤバ製だ。特にできのいいアドオンタイプのEPSはプライベートチームにとっても救いの神である。
このほか、CVTに使われているベーンポンプや産業用油圧機器(コンクリートミキサーやパワーシャベルなどなど)、何気なく目にする生活の中に溶け込んでいるのがカヤバの製品だ。
もっといろいろおもしろいもの、意外なものもたくさんあるが今日はこの辺で……。