日下部保雄の悠悠閑閑
シュレッダー
2023年12月18日 00:00
大抵の会社なら置いてあるシュレッダー。第三者の目に触れさせたくない書類などをガーと飲み込んでくれる。「これから先は任してくれ!」と言わんばかりのたくましさ。裁断機能はシュレッダー上部で完結し、下の箱は裁断された紙が大量にたまっていく。
会社にあるシュレッダーは大きく頑丈だ。箱がいっぱいになると赤い警告灯が付き裁断が止まる「もうお腹いっぱいです」。「いやいやまだいけるでしょ?」と箱を引き出して上からギュギュと裁断紙を押し込む。すると「仕方ないな~」とまたグィーンと動き出す。また動かなくなる。「まだいける?」「いやもうソロソロ……」「そう言わずに」ガーガー。やがて裁断紙がシュレッダーのまわりに散らばり始めて「もうダメ、ダメ、もうストライキ!」と動かなくなる。
こうなると箱を引っ張り出して裁断紙を処分しなければならない。ちょっと憂鬱。扉を開いたときから裁断紙が飛び散るのだ。一度袋が破れて紙が散乱して大騒ぎになったが、無理もきいてくれて何気なくそばにいるシュレッダーはありがたい働き者だ。
そんなシュレッダーが自宅にもあればと、ついでに安価な超小型機を買った。ついでというのは折り畳み椅子や何やらと3点セットで1万円の中の1つだったから。
机の下にスッキリ収まるし、軽いから必要なときに引っ張り出して使えるから便利! 取説を読むとA4サイズまで、5枚まで入ると記載されている。
会社のシュレッダーではホチキスや枚数も気にしないでどんどん入れていたので、そうは書いてあるけど適当に入れてみた。
シュレッダーに紙を入れると高い確率で斜めに入っていき、端っこでは5枚が10枚の厚さになる。新入りの小型シュレッダーも5枚入れたが10枚分の仕事をしようとしたに違いない、「なにすんだ!」ガオーンガガガとこの世の終わりのような音を上げて止まってしまった。慌てて裁断部を外してみたら、“きしめん”みたいな裁断紙がウネウネととぐろを巻いている。それが裁断部で詰まってなかなか抜けない。仕事終わりでもう寝たいというときだ。泣きそうになりながら詰まった“きしめん”を取り除いたのが初対面だ。「仕事させんなよ」ガガオーンと大声を上げながら大騒ぎの付き合いが始まったが、裁断紙にねっとりを糊がついてくることがあった。今考えるとグリースだ。当然嫌な予感……。
これがきっかけなのか、以来シュレッダーをかけるとガガガーとすさまじい音を立てて“きしめん”を製造していたが、ある夜とうとうあまりの音にわが家の一番偉い人から夜間使用禁止令が出された。
シュレッダーは時々詰まりながらも健気にガガガオ~ンと働いていたが、シュレッダーから油の匂いが……。「油の匂い??」。紙に油のミスマッチに半信半疑。なかったことにして使い続けていた。頭の中で警報音が鳴り響く。そしてついにそのときがやってきた。ガオーンガガガといっそう大きな音で騒いでいたシュレッダーが突然の静寂に包まれた。ハシゴを外されたような気分だ。
使い方がわるかったと反省したもののウンともスンとも言わないシュレッダーはどうしようもなく寂しく部屋の隅に置かれ退役の日を待っている。
後日談があってそろそろ分解してみようと念のためスイッチを入れてみたらゴーと動き出した。焼き付いた(と思われる)モーターが復活するものなのか。果たして再生するのかウチのシュレッダー(無理だな)。
忙しくも、なんということない日常だった。