日下部保雄の悠悠閑閑

全日本ラリー選手権開幕

ラグーナビーチのサービスパーク。左は奴田原選手のADVANラリーカー、右は石黒/穴井組のKYB号。SustainaLubは新開発で環境に優しいショックアブソーバーの作動油

 2024年のラリーシーンが開幕した。第1戦は「RALLY三河湾2024」、トリッキーなターマックコースで一部グラベルもあるが、ほぼメインステージはターマックになる。

 この開幕戦は、カヤバラリーチームにとってクルーも含めたオールカヤバの初戦となる記念すべき1戦。コ・ドライバーの穴井謙志郎選手は「初戦の目標はJN1の後ろ、速いJN2の中に混じってシングル」という現実的かつ高い目標を立てていた。私としては無事に帰ってこれれば大出来だ。

 車両はGRヤリスでJN2をJN1仕様にしたもの。タイヤは細くなるがリストリクターは1mm大きくなり出力は上がっている。隣でサービスを受ける奴田原選手は日本で3台目のGRヤリス・ラリー2を手に入れたがラリー直前に手元に届き、ラリーそのものがシェイクダウンとなった。

奴田原選手のADVANカラーのGRヤリス・ラリー2。日本で3台目のラリー2。初戦に滑り込みで間に合った
GRヤリス・ラリー2のエンジンルーム。シンプルにまとめられていた

 豊橋近くのサービスパークと関連企業ブースは、ヨットハーバーの隣にある海浜緑地の大きな公園に置かれた。天候さえよければ海と広い空。気持ちのいいのんびりした取材になるはずだ。ラリーもコンパクトにまとまっており約80kmのSSで争われる。

 隣でサービスを受けている奴田原車のGRヤリス・ラリー2をのぞく。元タスカエンジニアリングの山田チーフメカに、「届いたばかりで、ホントに走れるの?」と聞いてみたら、「アジャストすればいいだけで、それほどすることないんです」との返事。コクピットはJN2車両よりも整然とレイアウトされ、サスペンションから溶接も丁寧なボディワーク、小さな3気筒エンジンを効率よく収めたエンジンルーム。ながめているだけで気持ちがいい。ラリー車でもトヨタの仕事はすごいと思った。TPS(Toyota Production System:トヨタ生産方式)は、フィンランドのラリー車生産ラインでも活かされているのか! ラリー2はファクトリーを出た時点で使用部品が決まっているので、当然と言えば当然だが素晴らしい。

 ラリー車がタイムコントロールに出て行った後はヒマになる。ブースをのぞきながらKYBのテントに戻ることにする。各ブース、工夫を凝らして子供から大人まで楽しめるコンテンツをそろえ、さりげなく企業PRにもなっている。

 コバイライネン選手のスポンサーである「AICELLO(アイセロ)」は、環境にも優しい組成でできたフィルムメーカーだということを初めて知った。優勝候補のコバライネン選手は、静脈瘤の手術で今シーズン序盤を休養することになったが、幸い早期の手当で復帰は早そうだ。ピンチヒッターは久しぶりの国内ラリーとなる田口勝彦選手。

 ラリーサービスで懐かしい顔に会った。元ADVANラリーチームのドライバーで、1980年代に9年にわたって英国RAC(ロイヤル・オートモビル・クラブ)ラリーで一緒に走った大庭誠介先生。ADVANの後輩、奴田原選手の表敬訪問だ。

現役時代一緒に走っていたNRSの高崎さん(右)と大庭先生。昔のまんまでした

 その大庭先生がSSを見に行こうと誘ってくれ、サービスパークから20分ほどのSSを見に行った。ヒメハル2と呼ばれる6.5kmのSSだ。細い! ラリー車が1台でいっぱいなほどだ。こんな道でラリーをやっているのかと正直ビックリした。それでもトップグループのラリー2は速い! 風のように眼前を駆け抜けていく。

 初めてのGRヤリス・ラリー2に手こずっていた奴田原選手が快調な音をたててやってくる。最初のSSで勝田(範彦)さんにめいっぱい離されていたが、それ以降はジワジワとペースを上げている。SSのタイムを見ているだけでクルーの頑張りが届くようだ。速いペースで姿を見せたと思ったらいきなり泥に乗ったのかブレーキが間に合わず、われわれの見ていた脇道をエスケープゾーンとしてフルブレーキでやっと止まった。バックギヤに入れてやっとオンコースとなる。10秒以上ミスしただろうか。福永シュコダに離されて4位でLEG1を終える。

珍しくコースアウトしそうになる奴田原選手のラリー2。エスケープゾーンで難を逃れた

 カヤバ号も丁寧にラインを狙って無事通過! ボディもキズ1つない。それを確認してホッとしてサービスに戻る。石倉/穴井組はクラス7位、総合11位でLEG1を終了。トップから4分離されるが初期の目標を半分以上達成して喜ばしい。

KYB号は丁寧にコーナリングラインを通過する。初の全日本を入賞で締めくくった

 LEG2は10kmのSSが4本あり、コース幅も広くなるという。速度が上がるとリスクも大きいがトップは堅調な走りをする勝田(範)さん。2位はラリー直前に完成した新井(大)選手のシュコダR2、見ていたLEG1のSSでも一番元気よくて走りが鋭い。LEG2は1つのSSで1位を取り、約20秒差の2位でシュコダのラリーを終了。今年のラリーは面白くなりそうだ。

 奴田原選手はと言えば、サイドブレーキが効きっぱなしになるというトラブルに悩まされた結果4位でラリーを終えた。

 そしてカヤバ号は無事完走してクラス6位、総合10位となった。トップとは9分半の差だが、その差を埋めていくのはまだ先。初戦としては上出来の入賞だ! おめでとう!!

 というわけでラリーを楽しんで豊橋を後にした。

企業ブースに遊びに来たモモちゃんと。60kgあるそうです。優しく遊んでくれうれしい!
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。