日下部保雄の悠悠閑閑

ホンダのコンパクトSUVに乗った

WR-V。オーソドックスで飽きのこないデザイン。タイには50名ほどのデザインチームがあり、アジア地域に向けたデザインを担当する

 タイに行ったのも何かの縁、今度はタイで開発されてインドで生産されたホンダのグローバルコンパクトSUV、WR-Vに乗れた。

 ホンダのアジア開発拠点はタイにあり常時500人以上が常駐し、主にアジア市場向けの車両開発を行なっている。

後ろ姿もなかなか端正

 ホンダのプラットフォームの考え方は柔軟で生産場所、需要に応じて異なる車種のプラットフォームを組み合わせて作られる。今回のインド生産のWR-Vは前半はフィットをベースにし、後半はインドネシア向けの3列シート車、BR-Vから作られた。フィットはセンタータンク方式だが、WR-Vもその名残で前席下が盛り上がっている。実際のタンクはBR-Vの位置、つまりリアシートの下に置かれた。

 サイズはコンパクトとはいえ意外と大きく、4325×1790×1650mm(全長×全幅×全高)でホイールベースも2650mmと長め。ヤリスクロスよりひとまわり大きい。大柄なインド人でもゆとりをもって座れるサイズだ。以前インドに行ったときに見たクルマはいつも人で満載だったので納得だ。

 エンジンはフィット用の1.5リッター+トルコン付きCVTで1230kgを走らせる。出力は87kW(118PS)/142Nmで余裕があるとは言えないが、日本での使用条件を考えると必要十分だ。

 駆動方式はFFのみ。ハイブリッドの設定もない。シンプルに価格を抑え、そのかわりに安全装備やHonda SENSING、6エアバッグ、オートエアコン、7インチディスプレイなどフル装備だ。豪華じゃないがスタンダード以上の装備が備わる。

 Zグレードの本体価格が234万9600円で装備の割には安価な価格設定だ。乗せてもらったZグレードはオプションのホンダコネクトや9インチナビ、ETCを装着しても268万8400円だった。

装着タイヤはブリヂストンのT005A。215/55R17でV規格でした。こちらもインド製

 広いキャビンでは後席の前後長は少し短めでフラットだ。これも多人数で長時間乗るときには座りやすそうだ。インドでは後席の必需品、リアベンチレーターも標準装備だ。

後席のレッグルームは前後長はそれほどないが広くセンターアーム付き

 前席は比較的ワイドでクッションストロークが大きい。質感は質素だが雑ではないのが好ましい。

大きなフロントシートからの視界はボンネットが見やすくスッキリしている

 操作系もいたってシンプル。エアコンやオーディオ関係も迷わない。つまり取説を見なくても自分でもすぐに使えます。

 加速時はエンジンが「頑張ってます!」とばかりによく回る。ノイズはそれほど大きくない。そういえばロードノイズも共鳴音が抑えられているので煩わしくない。

 乗り心地は小さなショックは感じられるもののシートが吸収している。さらに大きな凹凸乗り越しではサスペンションがよく動いている感触だ。さすがに対角線での段差乗り越しでは少しバタバタするものの気にならない。ボディ剛性は硬いというよりもボディ全体でいなしているようで適度に前後がバランスしている印象だ。

間口の広いトランク容積は458Lでシートバックは6:4の可倒式

 インド生産と言えばスズキが小型セダンのバレーノを逆輸入していたが、品質の高さに驚いたことがある。残念ながら現在は途絶えているがサプライヤーも含めてインドで自動車産業が着実に成長しているのを感じた。

 それ以来のインド産の日本車、WR-Vは道具として使いこなせるタフさを感じた。上昇しているとは言え、まだ安い良質な労働力と新しい工場はこれからもアジア産の日本車が増えることを予感させる。正直、予測を超えた出来でした。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/2020-2021年日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。