日下部保雄の悠悠閑閑

2台のスバルと青森

レヴォーグ レイバック。千人風呂で有名な酸ヶ湯の宿をバックにして。硫黄泉の熱い風呂が気持ちよかったです。クルマは味がある仕上げ

 いつも意外な企画を提供してくれるスバルが大雪で話題になった青森の酸ヶ湯での試乗に誘ってくれた。寒いときは寒いところに、加えて雪があるとなるとなれば行くでしょう!

 車両はクロストレックのストロングハイブリッド(S:HEV)とレヴォーグ レイバックの2車種である。

 久しぶりの東北新幹線 はやぶさで新青森まで約750km、3時間半ほど。早朝に東京を出ると昼前には青森にいる。グンと青森が近くなった感じだ。

 また脱線してしまうが30年ほど前、初代エスティマで東北から長野まで雪質調査に旅したことがあった。エスティマに荷物を満載し東京から青森まで一気に北上したが盛岡から先の遠く感じたこと。それでも朝出て夕方には青森に到着したのはちょっと感激した。

 到着した夜の青森は陸奥湾からの湿った冷たい風に吹かれ一面ブラックバーン。信号が変わっても当時のタイヤでは容易に止まれず、というか誰も止まらない。交通量が少なかっとはいえ、交差点では道端にわずかに残る雪を探してビビリながらブレーキを踏んだのが今でも目に浮かぶ。衝撃的な道路事情だった。

 ブラックバーンは北海道の都市部の交差点でもよく見るが、これほど黒い路面が広がるのはあれが最初で最後だ。

 その旅では湿気を多く含んだシャーベット状の雪質の山形はなかなか手ごわかった。コロコロ変わる天気や気温によって一概に言えるものではないものの肌感覚だ。温暖化の進んでしまった現在はどうなんだろう?

 さてPCをたたんではやぶさから外を見ると知っている青森とは違う世界が広がっていた。白くない! 外に出ても寒くないし、歩道には雪がない。スノーシューズがむなしく乾いた舗装をたたくだけ。

 プレゼンでも苦笑交じりに「雪がありません」というほどだから12月の酸ヶ湯の雪は一過性だったのか。

 気を取り直して最初にレイバックのハンドルを握る。ノーマルのレヴォーグとは車高が違い最低地上高が200mmある。SUVとステーションワゴンの中間のポジションでレヴォーグと基本的なデザインは変わらないが確かに新しい。ブルーメタリックは冬の青森ではくすんだ感じに見える。

 走り出すと斜め前方視界は大きな三角窓のおかげで死角も少なくレヴォーク譲り。それにしても太いステアリングホイールは握りごたえがあつ。直進時もどっしりとして安心だ。レヴォーグってこんなクルマだったかなと思うが、最初のレヴォーグとはやはり感触が違う。

 それに車高を上げると爪先立ちして走るような感覚を持つこともあるが、レイバックは地に足をつけたストローク感のある走りで雪のない酸ヶ湯へ向かう。山道は「こんなに広かったっけ」と思うほど路面に雪はない。ちょっとガッカリだが正確なハンドリングとライントレース性、そしてスバル独自の縦置きエンジン用CVTのコンビはなかなか気持ちよく、水平対向4気筒1.8リッターターボの伸び感も十分にパワフルで乗りやすい。パワーはあるに越したことはないがちょうど手のうちに入る乗りやすさだった。

雪中のレイバックはオフィシャル写真から。こんな雪の中を走りたかったなぁ。ドライではライントレース性も乗り心地もGood
レイバックの1.8リッターターボエンジン。使い慣れた感があって整然とまとまっている。アクセルの踏み始めは音が少しガサツだが伸びやかさが使いやすい

 高速道路ではアイサイトXの機能を使って楽に運転した。装着していたスタッドレスタイヤ、iceGUARD 7は構造がシッカリしており、ブロックのヨレも感じないので夏タイヤの安心感をそのまま引き継いでいる。わずかにパターンノイズが聞こえるが逆に言えばそのくらいだ。

 酸ヶ湯では熱いお風呂をいただいて早朝からの疲れが抜けるようだった。帰路はクロストレック S:HEVに乗る。トヨタのTHS IIをスバル流に縦型エンジンレイアウトに詰め込んだ2モーターのストロングハイブリッドで、よくこのスペースに収まったなと思うほどコンパクトだ。外観からはe-BOXERのバッジでストロングハイブリッドと分かる。

クロストレック S:HEV。酸ヶ湯のさらに上ったところにわずかに雪が残っていた。静かで力強い発進

 スバルのプラットフォームは基本的に1種類でインテリアも基本デザインはレイバックと共通なので「アレ、何乗ってたんだっけ?」と思わないでもないがドライブフィールはかなりの違いがある。走り出しはモーターで力強く静かにスタートし、しばらくはそれが続く。レイバックよりも静かで速い。ただし高速の伸びはレイバックの1.8リッターターボには及ばない。

 重量はe-BOXERの方が少し重く、重量配分的にもレイバックが軽快さで優っていた。e-BOXERは重厚というよりも低速から高速まで一定リズムで走れるのが特徴。グリップ感はレイバックが高いが、こちらも負けてはいない。

クロストレック S:HEV。酸ヶ湯近くのコース。オフィシャル写真から。われわれのときはさらに雪が少なかったが今年の降雪は少ない
クロストレック S:HEVのエンジンルームはさすがにぎっしりと、窮屈そうにユニットが収まっている

 今回は残念ながらスバル得意の4WDは試せなかったが、後輪も2.5リッターフラット4ストロングハイブリッドの力を伝えるスバルのシステムは路面条件がわるくなるほど実力を発揮するはずだ。しかしオンロードでも十分に4WDの安定性が伝わってきたのは収穫だ。

 またレイバックとクロストレック S:HEVではリアのショックアブソーバーの構造が少し違い、レイバックの乗り心地の質感に微妙に表れている。

 e-BOXERでは下りばかリだったが惰性で走ることはあまりなかった。それでも燃費は15~16km/Lを表示しており、実燃費もわるくなさそうだ。

スタッドレスタイヤは横浜ゴムのiceGUARD 7を履く。雪がなく実力を発揮できなかったが、あいかわらずオンロードでの安定感は高い。夏タイヤと間違えるほど

 スバルの技術はキメ細かい。いろんなところに活かされているのになかなか伝わらないのが残念なところだ。

 デザインは好き嫌いが分かれるが、言い換えれば飽きのこないデザインでもある。

 今度は雪のあるところで乗りたいなぁと強く思った2台の試乗でした。

酸ヶ湯から一路青森へ。きれいに除雪され舗装に雪は全くない。日本の除雪技術は世界一じゃないかと思う
日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。