日下部保雄の悠悠閑閑

躍進するBYD

BYD事業方針発表会。左から東福寺厚樹BYD AUTO JAPAN社長(乗用車)、劉学亮ビーワイディージャパン社長、石井澄人ビーワイディージャパン副社長(トラック/バス)

 BYDの日本法人が事業計画の発表を台場のシティサーキット東京ベイで行なった。劉学亮ビーワイディージャパン社長とバス/トラックの担当の石井澄人副社長、それに乗用車部門のBYD AUTO JAPANの東福寺厚樹社長の3名のプレゼンテーションがあった。プレゼンは劉社長から始まり、ハッキリよく通る声の堪能な日本語で新興企業のリーダーらしい終始熱のこもった内容だ。

 BYDは乗用車を作り始めてわずか10年あまり。3年前にATTO3に試乗したときは予想を上まわった完成度にむしろ戸惑いを覚えた。コンパクトにまとめられたパワーユニット、シッカリしたボディ。低重心で路面をつかむシャシー……日本のメーカーが長い年月をかけて上ってきた坂道を駆け上ってきたようだった。

 BYDは乗用車の前にトラック/バスで日本に進出しており、現在は318kWhの80人乗り(都市型)大型バス、K8、138.3kWhの小型バス、36人乗り(都市型)J6。そして新たに218kWhの58人乗り(都市型)中型バス、J7が投入されラインアップがそろった。

日本向けのインホイールモーターを採用する中型バッテリバス「J7」。航続距離200kmは使い方次第。バッテリ容量は216kWh

 カタログ上の航続距離はいずれも200km+が目安になっているがストップ&ゴーの多い都市部で同一ルートを走る通勤バスやルートバスなら現実味がある。価格はK8が4650万円、J7で3650万円と高価で補助金なしでは厳しいものの静かで振動が少ないのは乗客にとっては魅力だ。現実に350台のEVバスが日本で走っており世界累計では8万5000台の販売実績がある。

 そしていよいよEV小型トラックで物流にも参入する。実はEVトラックも世界累計で4万2000台あり、明らかにEVバス/トラックでは世界ではアドバンテージがある。

 そして乗用車ではSEALベースのSUV、SEA LIONが発表されお披露目された。スリークなデザインは注目されそうだ。

Sea Lion:SEALベースのSUV、スマートなデザインが人目を引く。ラゲージルームはこんな感じでシンプルな作りが見て取れる
2024年の乗用車販売台数は325万370台に及ぶ。NEV車の輸出は42万3375台

 さらに興味深いのはPHEVの年内導入が決まったこと。熱効率が50に近いという内燃機を積んだPHEVはバッテリの搭載量が少ない分、BEVよりも価格が低く抑えられ、本国での価格も衝撃的という。PHEV分野でも脅威になるのは間違いない。

注目のPHEVも年内に投入される。BYDのBEVとPHEVの比率は41.5%:58.5%となっており、実はPHEVの方が多い

 そして乗用車は2年後の2027年までに7~8モデル体制になる。年間平均で2台はニューモデルが投入される計算だ。この中には軽自動車に近いモデルも投入されると言われ、まさにフルラインアップメーカーになる。日本の乗用車BEV市場は輸入車が主役。日本に来てわずか3年あまりのBYD(乗用車)がそのうち10%を占める。

 100年に一度の変革期はこれまでの概念にとらわれない製造業の登場こそが本命なのかもしれない。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。