日下部保雄の悠悠閑閑

ダイハツのバイオマスプラント

バイオ実証プラントの概略模型。コンパクトにまとめられている

 ダイハツとのラリーでのお付き合いは長い。軽自動車のミニカーラリーを最初にA20カローラのダイハツ版となるシャルマン、1.0リッターのシャレードと、多くのダイハツ車で日本各地を転戦し、海外ラリーにも挑戦することができた。池袋に本拠のあったDCCSの親分、寺尾さんとは長いお付き合いをさせてもらっている。会えば毒舌を聞くことになる野武士だが味のある人だ。

 ダイハツは貴金属の自己再生を行なうスーパーインテリジェント触媒などキラリと光る技術も多く発表している。

 今回は自動車とは直接関係がないが滋賀県の竜王町にあるバイオガス実証プラントを見学させてもらった。

 竜王町は近江牛発祥の地。畜産と同時に稲作や果物の農業もすぐそばにある。ダイハツの竜王工場もあり、町が進めるバイオマス産業都市構想の一環にダイハツが参画する。

 実証プラントは牛糞や生ゴミからバイオガスと農家が使う有機肥料を生産し、ここで育った農産物から再び牛の飼料を生産するという循環型プロジェクト。

 コンパクトな実証プラントで多くのノウハウも蓄積されつつある。特に牛糞の発酵技術は実験を繰り返して実証プラントらしいかたちに整った。

 発酵はデリケートな技術だ。機械的に作れるわけではなく、特に近江牛の牛糞は従来の湿式発酵には不向きで、ダイハツ独自の乾式発酵技術を開発したという。

 小型発酵槽に収められた牛糞は消化液、水などを加えて約2週間の発酵工程を経る。個別管理することで槽ごとに最適な状態でガスを抽出することができる。現在は畜産農家からは2t/日の牛糞を回収している。

実証プラントのサンプル。一番左は搬入されてくる牛糞などに混じっていた異物。右は発酵スラリー(粘性の強い液体)

 発酵槽は37℃に保温されるが熱源はアルミの溶解炉からの排熱を利用するという。なるほど自動車工業ならではだ。

発酵槽を棚に収納して個別管理する

 また自動車ラインから使わなくなったロボットを、発酵タンクから残滓を吸い上げる行程で使っていた。自動車ラインから拝借してきた機材の活用はラインのアチコチで見られる。しかし自動車ラインと違って静かなもので唯一、発電用エンジンが一番騒がしい。この燃料も実証プラントで生産されたバイオガスを使い、エンジン側ではバラツキのある濃度に自動的に調整する。

もともと自動車ラインで活躍していた産業用ロボット。再度実証プラントで異物を取り除くなどの作業をしている。ご苦労さま

 先ほどのロボットが取り出した残滓は固体、液体に分離され液肥と堆肥として利用される。これが農家に有機肥料として使われる、これまで米、キャベツ、麦と農園での実証実験を行なっている最中で、将来はブランド化を目指すらしい。クリーンエネルギーから生まれた農産物、ブランドになりそうだ。

 大規模工場になると違った発想もあるかもしれないが、ダイハツらしい取り組みだと感じた。スズキもインドで牛糞からバイオガスを作るプロジェクトを推進し、5つ目の生産プラントの設置を発表している。くしくも日本の軽メーカー2社が同じようなアプローチでバイオガスプラントを作るのは興味深い。

日下部保雄

1949年12月28日生 東京都出身
■モータージャーナリスト/AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員/日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
 大学時代からモータースポーツの魅力にとりつかれ、参戦。その経験を活かし、大学卒業後、モータージャーナリズムの世界に入り、専門誌をはじめ雑誌等に新型車の試乗レポートやコラムを寄稿。自動車ジャーナリストとして30年以上のキャリアを積む。モータースポーツ歴は全日本ラリー選手権を中心に活動、1979年・マレーシアで日本人として初の海外ラリー優勝を飾るなど輝かしい成績を誇る。ジャーナリストとしては、新型車や自動車部品の評価、時事問題の提起など、活動は多義にわたり、TVのモーターランド2、自動車専門誌、一般紙、Webなどで活動。